第236回

10月25日「アメリカの頂点にいる悪魔たち」

・『ロード・オブ・ウォー』試写。監督・脚本アンドリュー・ニコル。と言えば『ガダカ』『トゥルーマン・ショー』『シモーヌ』のあの人である。今回もそれだけで唸ってしまうような秀逸な設定がポイント。

・ニコラス・ケイジ演じる主人公の職業は「死の商人」。年収8800万ドル。世界中の紛争地帯を回り、相手を選ばず兵器を売りまくっている実在の武器商がモデルらしい。冷戦後、誰が味方で誰が敵かという明確な視座が失われてしまってから、戦争映画やスパイ映画が作りにくくなってしまっているわけだ。が、どのサイドにも依らずただ状況を加速させていく、というこの視点は大発見である。

・徹底取材したネタをベースに緻密に書き込まれた脚本が出色だ。90年代、旧ソビエトがためこんでいた武器が大量に流出し、世界中にバラまかれていく様子がリアルに描かれる。それが各地に新興のテロリスト達を生み育てていく様子も。

・大量の銃器を極秘輸送中に国際警察に見つかり、証拠隠滅のために、立ち寄った平和な村の人々に全ての銃器をタダで配ってしまうくだりがものすごくおかしく、そしてこわい。アメリカという国の底深い罪を暴く、という意味でも、エンターテインメントに昇華された『華氏911』として観ても良いものだろう。

10月26日「アメリカのどん底にいる天使たち」

・『RIZE(ライズ)』試写。超人気ファッションフォトグラファーのデヴィッド・ラシャペルによる作品だ。彼は(収入のための)仕事のかたわら、LAのサウス・セントラル地区に通い詰めていた。ヒップホップのクランプ・ダンスに命を賭ける若者達を撮り続け、なんと3年かけて完成したドキュメンタリー・フィルムが、これ。

・麻薬と銃弾にまみれた、全米でも最もヤバい地域。若者達には「踊るか、ギャングになるか」という選択肢しかない。前者を選び、全身全霊で踊り続ける少年少女達の肉体は、全く持って凄い。わざわざ冒頭に「この映画の中のダンスは早回しではありません」というメッセージが出るが、その意図も納得である。

・こういうスタンスで、世界中のいろいろな「エッジ」を活写するという作り方が、今後映画界で確固たるジャンルになっていくと思う。

10月27日「どこかで誰かが保存している」

・ブログのプライバシー問題について。これは犯罪リスクだけではない。最低限、インターネット上データのアーカイブ化は公式非公式に複数の機関によって行われているってことだけは考えつつ書いた方が良いと思う。ネットは出版物よりもしつこいメディアなのだ。そこで一度公開したデータは一生消えないということのこわさは知っておくべきだ。

・それから一般公開ブログに自分の子供の写真を載っけてる人は、子は親の所有物であるから人権を認めない、という考えなのだろうか?

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。