第276回

9月4日「アトランシティー2.0」

・パソコン画面上に突如『アトランシティー』という文字が点滅。以前、アシッドという会社と一緒にアニメやマンガや小説を同時制作していたタイトルである。

・映像・画像・音響・文章……といった多種類のイメージを同時にインタラクティブに展開する必要がある企画だったため、コンテンツがほぼ揃った段階でプロジェクトをいったん停止。ブロードバンド普及率が人口の1/3を超えたら再開しようということになっていた。そこで、パソコンに通知機能を設定しておいたのだ。

・ネット上の情報と連動してアラームが鳴ったのはそれから5年後だったというわけ。さっそく、制作元のアシッド社に行く。すぐにプロジェクトを再開、当初の目論見通りに遂行しようということになった。

・時機を「狙った」のではなく「待った」わけだ。現在のインフラ上でこそできることをいろいろと仕掛けていく。動画配信サイトやブログも使うよ。

9月5日「クリエーター2.0」

・コンテンツの本質は形のないデータであることがばれてしまった時代。それを1コピー1ダウンロードごとに課金して稼いでいくというのは至難の業だ。と、いうこともわかってきたタイミングに「Web2.0」という言葉はとても耳障りが良い。ポータルとして多くの魅力的なコンテンツを搭載することによって来客を稼ぐ。そして新しい広告モデルによって、その賑わいをそのまま収益に変えていくんだよ、と。そのビジネスモデルは見た目カンペキだ。

・ただし、ちょっと待ってほしい。そこにあるのは経営者側の視点だけなのである。良質のコンテンツをどんどん掲載していくことによってポータルが進化していくことはわかる。そこで、コンテンツを創作する側のメリットは、どこにあるのか。その視点が消えてしまっている。

・「コンテンツは、素人が勝手にどんどん作っていってくれるものになる」という意味の発言を最近よく見かける。つまり個人クリエーターとしては今ここで戦略なしでやっていくとタダ働きのサイクルに陥ってしまうということだ。プロだけではない。今のところ素人の「ひらきこもり」クリエーターも、目の前にある大きなチャンスを逸することになる。

9月6日「残暑2.0」

・温暖化の影響か、最近、熱帯地域原産の蝶を都心で見られるようになった。写真はツマグロヒョウモン。現在は関東が生息域北限らしい。今後、目撃情報をブログ検索で追いかけていこうと思う。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。