第279回

9月23日「東京ゲームショウ2006その2」

・前回に続きゲームショウ会場から。PS3ゲームもXbox360ゲームもびびるほどに美麗で緻密である。今ここがマイルストーンと言えるポイントがある。まず、人物の表現について感性的に実写に追いついたということ。例えば格ゲーでは肌にズームすると毛穴までが描写されている。テニスゲームでは胸に浮き立つシャラポッチまで再現されている。ゲーム製作環境はこの表現力をもって映像業界への進出を加速していくことになるだろう。

・そして、家庭内環境がアーケード環境を超えたということ。セガは『バーチャファイター5』(PS3)を、リビングのゲーム環境を模したブースでプレイさせていたが、それが明らかにゲームセンターのAVクオリティーを凌駕してしまっているのである。セガやバンダイナムコのようなメーカーはゲームセンターの位置づけを再考しているところだと思う。

・ただし、である。それは画面や音響の再生環境を含めて全部それ相応のものを揃えた場合のことなのだ。ハイデフィニションのコンテンツをちゃんと楽しもうと思ったらモニターだけでも50万以上かけないと不十分だ。5.1chのサウンド環境を整えようとしたら費用だけでなく、十分な空間面積も必要となる。

・けれどもそういう支出をいとわないマニアがこの国には十数万人はいる。彼らにとってプレイヤーが6万だとか7万とかいう話は無視できるほどに小さいことなのである。格差社会の今ソニーはPS3についてはまずそういう層を相手に始めようと考えているのだろう(値下げをしたのはWeb2.0的広報戦略において極めて重要な”名無しのオピニオンリーダー”達が、ほとんどそういう層ではなかったということに気付いたからだと思う……つまりソニーは十数億円の広告費を間接的に2ちゃんねらーに払ったということである)。

・その次のターゲットは、遊びたいゲームが出るならば無理をしてでも本体だけは買う、という層だろう。四畳半の部屋で2万円くらいのテレビに無理矢理つないで遊ぶ、というような人達が数十万人いるのだ。Xbox360、プレイステーション3、Wiiといった次世代ハードは、2007年はこういった層への普及を成していくことになる。この時点では、シェアの奪い合いという図式にはならないだろうと思われる。

・しかし、100万台から500万台までの拡大期こそが、本当の勝負となる。この時、ゲーム機はハイデフ環境と一緒に、普及していくことになる。その時点において、家電メーカーは各テレビ局と結託して、マニア以外の一般ユーザーにも強制的にテレビを買い換えさせるキャンペーンを始めているはずである。それは地上波アナログ放送が終了する2011年まで続く。各家庭の貯蓄を絞り出させて、映像と音響をフルデジタル化、一挙豪華化させる目論見である。ソニーはPS3をもってこれに乗るはずだ。そしてマイクロソフトのメインターゲットはその時、テレビ放送から離れていく層ということになるかもしれない。

・さて、各ソフトメーカーは今後どう動くか。今すぐにそういった戦略に乗ることができるメーカーは限られているわけだが、そうでなければ、横への広がりを計っていくということが重要になっていく。つまり枯れた技術の水平思考である。

・例えば携帯電話を含め各携帯ゲーム機には、まだまだいろいろな使い方があるはずだ。そして、PS2の使い方はこれからますます重要になってくるだろう。1台で全世代を席巻してしまうような市場独占型のインフラは、これが最後になるかもしれない。そういう意味で、一般市場においてこれは僕はあと5年は持つと思う。例えばシーマンの続編を出そうとか、ジョジョのファンが喜ぶキャラゲーを出そうなんて話になったら、PS2が選ばれるわけである。

2006.10.02 |  第271回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。