第280回

9月25日「世界に、あるいはたった一人に見せたい映画」

・『めぐみ-引き裂かれた家族の30年』試写。1977年に北朝鮮によって拉致された横田めぐみさんを捜し求め続けてきたご両親(横田滋さん・早紀江さん)ほか、拉致被害家族達の長きに渡る苦闘を描くドキュメンタリー。

・アメリカ映画である。インタビューシーン以外は日本の各テレビ局の素材を使っているため、我々日本人は何度も観たことのある映像が多い。ところが、見慣れていたはずのもの(例えば、北朝鮮の手によってつぎはぎに作り直されためぐみさんの写真)が、このフレームの中で見ると、思わず呻いてしまいそうになるほどの迫力を持つのである。フェアな報道とは別に存在する、作り手の視点を明確にしたドキュメンタリー映画の価値を再認識させられる。

・もし今、いきなりめぐみさんが戻ってきたら。長い間むこう側で暮らしすっかり考え方が変わっていたら、どんなふうに話しかければいいだろう。横田夫妻でなくても、そんなことを考えたことがある人は多いだろう。僕は、まずこの映画を観てもらったらどうだろうと思う。


9月26日「あの反米はこの反米と同じか」

・ドキュメンタリー映画を観る。『9.11-8.15 日本心中』。現代の日本のありようを、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロとの関係において見つめ直す、という意図で、様々な評論家、思想家にインタビューする。

・911というよりそれ以降のアメリカの動きに対応して盛り上がってきたイデオロギーを捉えて、戦後日本のありようについての異論を再提出する試みだと思う。反米を起点とした民族主義、そして南北朝鮮などアジアへの傾倒が、今改めて、とうとうと語られる。ただし、これについては団塊世代の人達がかつて大騒ぎをもってアジテートし、結果、完膚無きまでに叩きのめされたものだということを30代以上の人は知っているだろう。例えば北朝鮮に理想郷があると思いこみ、飛行機をハイジャックしてまでむこう側に行ってしまったような人達のことを、今の30代以下の人はひどく格好悪いことだと考えるだろう。そこが難しい。

・パレスチナ闘志の父と日本赤軍リーダーの母のもとでレバノンに生まれ、数奇なる生い立ちを経て日本にたどりついたジャーナリスト、重信メイの発言は興味深かった。出生届けも出されなかったという彼女のスタンスは「グローバル」ではなく「根無し」である。そこに大きなヒントがあるかもしれない。

9月27日「この反米はあの反米と違うのか」

・『グアンタナモ、僕達が見た真実』。旅行中、観光気分でアフガニスタンに入り込んでしまったパキスタン系イギリス人の若者3人が、そこで運悪く戦闘に巻き込まれ、アメリカ軍に拘束される。英語が喋れることがかえって災いし国際テロリストと誤解され、グァンタナモの収容所に送られ、長期に渡る拷問を受ける。そのプロセスを正確に再現する。実際のニュース映像や本人達のインタビューを挿入し、またグアンタナモ内部の風景については資料に基づいてセット再現している。

・不運な若者達より、グアンタナモ自体がこの映画の主役である。そこはキューバの一部を占拠する形で作られた特殊な基地である。国交のない国の領内にあるため、アメリカの法律も国際法も適用されない。それを利用して、主にテロリスト容疑者が収容され、公正な司法手続きを経ずに拘束や取り調べを受けているらしい。

・万人が「自由」で「平等」な世界なんてありえない。絶対的な「正義」は存在しない。しかし、その理念でアメリカという国が成り立っているのは、必然的に発生する捩れや綻びの部分を、国の外側に押しつけているからだ。グアンタナモ収容所はその象徴なのである。
・しかし、押しつけるべき「外側」が無くなった時、このシステムはいきなり破綻する可能性がある。自由・平等・正義の御旗のもとでアメリカの幸せ家族の一員となっている日本も、実は非常に危うい状況にあるのかもしれない。

2006.10.09 |  第271回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。