第303回

3月16日「池袋で会いましょう」

・まず、資本主義が限界に達している、ということ。ここを突破するためには、経済のシステムを根本から作り直さなければならない。そのとき既得利権は根底から崩れ去るだろう。しかし、どうしても、やらなくてはならない。マンガのようにわかりやすい事例が浮上してきたこのタイミングが、大きなチャンスだったはずだ。しかし、司法と行政は、それをごまかしてしまった。「たった一人の悪者がいた」というとても簡単な解答を用意することによって問題を先送りしてしまった。なんということだ。

・この国のお偉いさん達は、戦争に負けて外側を搾取できなくなった時、先人達が積み上げてきた歴史と伝統と誇りをバーゲンにしてその利益をむさぼった。とうとうそれが売り切れてしまった時、内側の弱者、すなわち下の世代を食い物にするしかなくなった。そういう時代が約20年間、続いた。若者達はそれでも必死にがんばり続けた。上の世代がやっていることを学び、それを応用しようと努力した。

・劇的に新しいテクノロジーとインフラによって、それは、思いもかけないほどの成果に至った。ITバブルの錬金術とは、新しい方策を編み出したわけではなく、むしろ旧来の方法を真面目に容赦なく遵守した成果だったとも言えるのである。それが上の世代の人間にとってショックだった。甘い汁を吸ってぬくぬくと暮らしていたら、ある日とつぜん、若者が同じようなことを、コンピュータとネットを使ってものすごいスピードでやり始めたことに気付いたわけである。それで「いまのナシ、全部ウソ」と言い出したのだ。

・この影響は甚大だろう。企業や国家のためにしゃかりきに努力しようなんて若者はもう、いなくなる。優秀な人々は努力したり戦ったりするより、既存のシステムの外側に勝手に進み始める。新しいモラルと経済を作って、そこで勝手に幸福になっていくはずだ(例えばひろゆきさんは突然変異ではなく、正常進化の人なのである)。

・そんな潮流に気付かないでぼんやりしている若者は、老人達が運営する農場の家畜として取り残されることになるのだ。急いだ方がいい。

・『ひらきこもりのすすめ2.0』は、そういう危機感を伝えたくて書いたものです。発売を記念して講談社BOXの太田克史編集長と、ジュンク堂書店池袋本店(TEL03-56111)のカフェで「『ひらきこもりのすすめ2.0』の向こう側へ」というトークセッションやります(こんなふうに何気なくこっそり書くのは40人限定だからです)。なごやかな雰囲気でいろいろお話しできればと思ってます。

3月17日「白い氷、黒いペンギン」

・フルCGアニメーシヨン『ハッピー・フィート』。よちよち歌い踊るペンギン達の可愛らしさはこの映画の魅力のほんの一部。シンプルな設定と平易なシナリオが、深淵で壮大な物語を作り出す。

・主人公のペンギンは、見た目も声もフリークスだが、言葉ではなくダンスで気持ちを伝えようとする。それが、最終的には種の存続に繋がるほどに大きな話になっていく。

・音楽とダンスを武器の一つとしてアイデンティティーを確立していったアフリカ系アメリカ人の歴史をなぞった作品として見ても興味深い。音楽や踊りや文学が、そして映画が、腹の足しになるのかよと考える人は豊かな国にほどたくさんいる。そういう人達にじゃあこれ見てみろよと薦めたくなる一本である。

・ところで名画座文化が残っていたらこれと『皇帝ペンギン』のカップリングは流行ったでしょうね。


3月19日「プロジェクト始動」

・CG制作会社・アシッドの北原社長とミーティング。僕が原作を担当させてもらったフルデジタルコンテンツ『アトランシティー』の展開について、いろいろと。まずデジタルストーリーとして配信することが決まった。小説とコミックとアニメとゲームが組み合わさったようなコンテンツを、ちょっと前例がないような方法で見せていくよ。

2007.03.26 |  第301回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。