第388回

11月2日「SF的風景の一部になる」

・CMフェスティバルの会場ロビーで、「MEDIA PORT UP」(ニコン)のショウイングをやっていて、じっくりと体験することができた。

・ヘッドフォンの前面に突き出したアームに小型ディスプレイが設置されている。映像をここから効き目の眼球に直接投影する仕組み。つまり映像は、視界の風景の中に巨大なスクリーンがぽっかりと浮かぶ形で見える。

・これの原形になった技術は、もとは80年代軍事の世界で開発され90年代には湾岸戦争などで実用されたものだ。エンジニア系の兵士が、戦地において例えば戦闘機や戦車を操作したり修理したりするために用いられた。分厚い設計図を持つ代わりに、目玉に投影された設計図を現実に目の前にある機械と重ね合わせながら両手で作業できる。

・みんながこういうギアを装着して、そこからネットに接続して生活したら、どんな世界になるか。さらにこれにカメラを着け、受信だけでなく視界映像を発信するようになったらどうなるか。と、ここから先は渡辺浩弐の小説を読んで下さい。

11月10日「ポメラニアンになる」

・キングジムのミニワープロ『ポメラ』を購入。文章を書く、ということだけに特化した携帯マシン。枯れた技術の水平思考。キーボードは折りたたみでちゃんとしたのがついてるしATOKは入ってるし、執筆については何の問題もない。なんで今までなかったのだろう。

・僕はデスクに向かっているときではなく、ぶらぶら歩いてる時に頭の中で書くことが多い。それを脳から取り出す作業つまり執筆作業の時間が、ひたすら退屈なのである。書きながら酒を飲んでしまう癖がついてしまうような作家さんは、たいていこのパターンだと思う。それで歩きながら片手でケータイ電話に入力する技術もマスターしたが、座る場所さえあれば、ポメラの方が便利そうだ。

・ところで二つ折りにされたキーボードの接続部分が開け閉めするたびに簡単に外れて内部がむき出しになるのは仕様なんでしょうかキングジムさん。この構造については激しく改良の余地があると思う。

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11月11日「今度は料理小説」

・『パンドラ』から急にボールが来たので、書き下ろしを一気に仕上げる。全てポメラで書いてみた。難点は1ファイルの制限が約8000字だってところくらいで、それにしてもすぐ慣れるだろう。快適に、1本仕上がる。

・『吐田家のレシピ』という読み切り短編。もしかしたらこれ、ポメラで書かれた最初の小説かもね。

2008.11.16 |  第381回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。