第392回

12月5日「星を見上げる」

・『WALL・E/ウォーリー』。ロボットの孤独。死なないことの切なさ。そういうのって、ずいぶん昔、SFの大きなテーマだった。

・星新一作品を読み直してみたい。人間に捨てられ、宇宙のはてでいつまでも死ねずに呟きつづけるロボットの話とか、良かったなー (「薄暗い星で」/『悪魔のいる天国』収録)。

12月8日「昭和を保存し再生する」

・「CET08」に行く。CET(セントラルイースト東京)すなわち秋葉原・浅草橋・人形町あたりの一帯にて行われているアートイベントだ。舞台と見立てられた街をぶらぶらと歩きながら複数の場所で同時開催されている様々なショウイングを楽しむ。

・このあたり、もとは問屋街で、戦後すぐの頃から倉庫などにも使われる大きなビルが建ち並んでいた場所だが、今は老朽化が進んでいる。’80~ ’90年代の発想なら地上げしてぶっ壊して更地にして新築ビルをぶっ建てようということになるわけだが、そうではなく、既存のビルの風情を残したまま改装して、アートの場……ギャラリーやアトリエやイベントスペースやカフェとして再生しようという試みだ。

・閉店した理髪店や歯科医院の内装をそのまま使った展示、牛乳屋の跡地をmixiで集まっためんつでよってたかって改装してしまったアートスペース、など、昭和の風景を若手クリエーターが再発見する試みとしてみても、興味深かった。

・そういえば再生廃墟の先駆け・中野ブロードウェイには最近、村上隆さんがギャラリーをオープンしていた。何やるんだろ。

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12月9日「ノーベル賞とるコツ」

・ノーベル賞の記事を読んでいてびびるのは、評価された発見や研究のあまりの古さである。小林誠氏と益川敏英氏が「小林・益川理論」を発表したのは1973年。下村脩氏が「クラゲの緑色蛍光タンパク」を発見したのが1961年。南部陽一郎氏が「自発的対称性の破れ理論」を発表したのは1960年。ほぼ半世紀前だ。インターネットもパソコンもない時代。ノーベル賞がある種「殿堂入り」的な意味の賞だとしても、これはあまりにも古い、というか遅いように思える。

・友人の研究者に聞いてみたら、賞の権威があまりにも大きくなりすぎたせいで、特に科学の分野では絶対確実と証明されたものしか取れなくなっているからだそうだ。つまり他の理論や研究に役立ち、価値が二重にも三重にも証明されていないと、対象に上がりにくい。例えば「蛍光タンパク」は、昨今のがんやアルツハイマーの研究現場において、ミクロの世界で細胞を観察することのニーズが出てきてはじめて実用・応用されるようになったわけである。

・故人には与えられないわけだから、ノーベル賞を目指す人はまず、できるだけ若い時点ですごい業績をあげた上で、じっと長生きすることが必須なのである。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。