第397回

1月12日「成人の日」

・新成人の皆様、おめでとうございます。ただし成人式に参加してるような若者にとってはこれからはちょっときついことになるかもしれない。言われた通りに真面目にやっていさえすれば誰かが面倒をみてくれる、そういう時代が終わってしまったからだ。学校を出ても資格を取っても何も保証されない。就職できても仕事いくらがんばっても、いつクビになるか、わからない。じゃあどうすればいいのか、教えてくれる大人も、いないかもしれない。

・でも、いいことだっていっぱいある。僕が20歳の頃、1ドルは270円だった。旅に出てみるとか、どうだろう。

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1月13日「情報時代の不幸」

・『チェンジリング』観る。失踪の後5ヶ月ぶりに戻ってきた息子は、明らかに別人だった。しかし警察もマスコミも、信じてくれない。抗議を続ける母親は、とうとう精神病院に監禁されてしまう……と、観客の99%はこの設定を先に知ってから観るはずだ。しかも母親役はアンジェリーナ・ジョリーだ。最初から最後まで母親側に感情移入して見続けるということになる。

・しかしこれは、「もしかしたら狂っているのは母親の方かも」という可能性も抱いて見るべきものかもしれなかった。そうなると主観は、戻ってきた少年の側に置かれる。もしこの子が本当の息子だったら。ひどい体験の後に変貌してしまい、やっと戻ったら母親に認識してもらえなかった、としたら。その可能性を付加することによってこの映画は倍の意味を持つ。

・チェインジリングというのは「さらっていった子供の代わりに妖精が置いていった醜い子供のこと」らしい。

1月14日「それはもともと僕らの金だ」

・この国では、稼いで余ったお金の半分は税金として持って行かれる仕組みになっている。経営者の立場でいうと、どうせ取られるなら使ってしまえ、ということになる。これがつまり税金対策ということ。

・使わなかったらその半分はもってかれていたと考えれば、例えば1万円使ったとしても、5千円しか使っていない、という感覚だ。もちろん無駄に使う意味はないんだけど、必要なものなら、倍の値段でも買った方がいい、ということになる。これを、どこの企業もやっている。わざと倍の値段払って、あとで別の形でこっそり返してもらう、なんてテクニックもある(らしい)。

・つまり税金の1万円には、少なくとも2万円の価値があるってことなのだ。徴集の手間を考えるとさらにその倍くらいの価値はあるだろう。そうやっていったん取り立てたものをまた国民に現金で返す、というのは、相当の額をロスするということである。

・金をドブに捨てることこそが景気刺激策じゃないか、と言う考え方もある。しかしここで良く考えてみてほしい。この場合、その金はドブじゃなくて、どこに消えたということになるか。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。