第399回

1月21日「社会主義でいいなら」

・ベーシックインカム制度について電話取材を受けた。全ての国民に国が最低限の給料を払ってしまおう、というアイデア。ひらきこもり推進派だから賛成でしょという前提でのご質問だったので、ちょっと困った。そういうことじゃないんですよ。

・好きなことを楽しくやっていく、という生き方には、稼ぎたい、というモチベーションが不可欠だ。もちろん誰に対しても最低限の生活は保障されるべきだけど、経済活動から距離を置いては創作活動(ないし、前向きな生産活動)はできない。

・こういう発想の先には、政府が個人の経済活動のみならず生き方までを管理する社会がある。「もー仕事ないし家もないし何でもいいから悪いことして刑務所に入れてもらおう」って人がたまにいる。そこで、メンドーだからこの社会全体を、わざわざ悪いことしなくても入れる刑務所にしてしまおうってことではないか。

・日々ネットで自由に活発に意見を述べている多くのブロガーがベーシックインカムを支持していることが不思議なのである。「自由」って、そんなに簡単に手に入るものではないってこと、忘れてはいないか。

1月22日「1970年の記憶」

・国立科学博物館の特別展「1970年大阪万博の軌跡」(2月8日まで)を見に行った。「生命の樹」の一部が再現されていると聞いたからだ。「太陽の塔」内部の空洞に、地球上に出現した様々な生物のオブジェを歴史の順に配置したものだ。僕はこの空間をテーマに「1970年の『少年マガジン』」という小説を書いたことがあった(『コミックファウスト』誌に掲載)。

・生物の進化過程をたどりながらエスカレーターで上へ上へと進んでいく。最初は原始的な三葉虫やアンモナイトがいる。次にはイカや魚。やがて足が生えはじめ、そして巨大な恐竜が現れ……という具合。二足で歩き始めた人類のさらにその先がまぶしく明るくなり、太陽の塔のあの金色の顔の裏面が見える。ただしエスカレーターはそこまではたどりつかず、直前で横に移動して外に、つまり万博会場の大屋根に追い出される形だった。

・ところがそのエスカレーターからあの金色の顔に飛び移り、そのままそこで1週間たてこもった過激派青年がいたのだ。その行為の象徴性には未だに戦慄してしまう。

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1月23日「お酒とチョコ」

・チョコの日々。今日も新宿伊勢丹サロン・デュ・ショコラ。<ドゥバイヨル>マルク・ドゥバイヨル氏のセミナーに参加した。テーマは、ショコラとワインのマリアージュ。

・チョコレート食べながらワインかー。推薦されたのはなんと日本の『”甲州”キュヴェ・ドゥニ・デュブルデュー』だった。特にフルーツを使ったボンボンショコラと合うんだって。

・ドゥバイヨルのショップは丸の内オアゾと丸ビルにある。それからサロン・デュ・ショコラに来られなかった方、ジャン=ポール・エヴァンのマカロンも、アンリ・ルルーのCBS(塩バターキャラメル)も、あるいはマゼのプラズリン(アーモンドキャラメル)も、今では伊勢丹地下の常設ブースで買えるようになっている。このあたりからハマってみては。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。