忘年会の季節である。しかし世の中がこんな状況では、みんなで集まって飲み会などできそうもない。今年はひとりで飲むべきか。とはいえ、ぼっちでキャバクラやガールズバーに行くのは余計に寂しい。若いコのノリに気圧されてしまいそう。僕は、「俺の夜」企画でどのような店を紹介するべきか悩んでいた。そんなときに、「小料理屋」が思い浮かんだのだ。
「なんの取材? ちょっと待っててね! 今、営業中なのよ!」
電話の先で威勢の良い声が響く。客の注文をさばきながら応対していることがうかがえる。それが、湯島にある小料理屋「おばんざい 心」の女将・長澤美枝さんとの初めての出会いだった。
美人女将が精魂込めた手料理の数々に舌鼓
後日改めて店に足を運ぶと、そこには開店準備に精を出す美しい女性の姿があった。女将の長澤さんだ。毎日、15皿の料理がカウンターに並ぶのだが、そのすべてを長澤さんがイチから手作り。普段は開店の2時間前から仕込みを始めるのだとか。どの料理を食べようか種類豊富で目移りする。
「お客さんは若いカップルから年配の方まで幅広いので、お肉が食べたい、お魚が食べたいとか要望を聞いて出すことも多いですよ」そこで「バランスよく」とお願いすると、自家製チャーシュー、旬の野菜のポテトサラダ、剥きアサリと豆腐の卵とじが出てきた。さっそくチャーシューから箸をつけてみると、お世辞抜きで今まで食べたなかで最もおいしかった。
肉が非常に柔らかく、味がしっかりと染み込んでいる。一方で、ポテトサラダと卵とじは、素材の旨味が生かされており、日本酒によく合う。そして、「お酒をご馳走してもらうのも大歓迎」という長澤さんと杯を合わせて乾杯!酔いが回ってくると、やはり気になるのは、美人女将・長澤さん自身のことである。
「母親から『料理が得意なら男が逃げないよ』と言われたことが料理を始めたきっかけかも(笑)」
普段は食べ歩きが趣味で、味の研究に余念がない。だが、もともとは銀行員だった。その後プログラマーなどを経て、30歳の節目で自分の店を開こうと決意した。
「京都が好きで月イチぐらいで通っていました。おばんざい屋を巡るなかで、自分ならこうしたいという思いもあって……」和食だけではなく、洋食から中華まで。ジャンルに囚われず、多彩な味の選択肢を揃えた。店名の「心」には、“新しい”と“気持ち”の意味が込められているのだという。大皿の料理は季節の食材などを使って毎日違ったものが出されるので、通うたびに新しい味と出合えるだろう。
「今はネットで予約ができたり便利な時代だけど、やっぱり実際に話して雰囲気をつかんでほしい。気軽に電話で問い合わせてもらえたらうれしいですね!」コロナ禍も相まって、現在はオンライン全盛期に。人と人とのつながりが希薄になりつつある昨今ではあるが、だからこそ「心」を大事にする女将の人情に胸が熱くなった。いろいろあった今年の最後、この店に出合えて良かった。ひとり忘年会も悪くない……!
【おばんざい 心】
住:東京都文京区湯島3-35-2-2F
電:03-3835-2144
営:16~22時(月~金)、16~21時(土)
休:日・祝
料:大皿(480円~)料理は日替わりで旬の食材を使用。日本酒も豊富に揃う(880~980円)
※喫煙可能店
※湯島駅(4番出口)徒歩1分、御徒町駅より徒歩4分
撮影/長谷英史
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マエザワ エロ本出版社出身、元ギャル男雑誌編集者。無類の外国人好き。趣味は「夜の国際交流」
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