北朝鮮の「幸せ家族」は嘘だった! 当局のヤラセを隠し撮りしたドキュメンタリー映画『太陽の下で 真実の北朝鮮』の衝撃
しかも、この映画はもう一つ重要な示唆を与えることに成功している。
「隠し撮り」を含めてクローズアップの多用により、ジンミの表情の機敏を捉えたことだ。スクリーン一杯に広がるその初々しい眼差しに引き込まれるうちに、彼女の社会的存在よりも生物学的存在に焦点が合うようになるのである。彼女を国籍や身分などの属性から眺める思考に待ったをかけ、「わたしたちと同じ人間である」という端的な事実がありありと実感される。退役軍人の話を聞かされる少年の一人が何度も眠りそうになる様子を、長回しで捉えたのもこの意図によるものと考えられる。だからこそ、まだ「体制」に馴致される前の子どもに目を向けたのだろう。
わたしたちの中には、拉致被害国などの立場から北朝鮮の人々に敵対心を持つ者がいるが、少なくとも、ある国の「体制」と「文化」と「国民」は切り分けて考えなければならない。特に人権弾圧を正当化している独裁国家の場合は尚更だ。最近、キューバのカストロ前議長の死去に際し、英雄として持てはやすメディアがあったが、自らの思想信条(例えば反米イデオロギー)ゆえに、人権弾圧という影の部分を見ないということが起こり得る。それは、ある国の「体制」を悪いと判断するだけで飽き足りず、「国民」をも一緒くたにして語ってしまう心理にもいえることだ。
だからこそ、そこでは共感(エンパシー)が鍵になる。
なぜなら「同じ人間である」という実感があって初めて、かの国の人権状況にも切実さを持つことができるからだ。
映画の終盤、ジンミの表情にある決定的な変化が訪れる。それは当局が決して望んではない、あまりにも人間的なアクシデントである。わたしたちはそこから一体何を読み取るべきなのか。ぜひ劇場で確かめてほしい。
映画『太陽の下で 真実の北朝鮮』は、’17年1月21日からシネマート新宿などで順次公開
文/真鍋厚(評論家)’79年、奈良県生まれ。出版社に勤めるかたわら評論活動を始める。映画、文芸を通して現代社会を読み解く。著書に『テロリスト・ワールド』(現代書館)

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『テロリスト・ワールド』 テロリストの例を評論・映画・小説・マンガを網羅しながら考察し、一律に解釈できない多様な正義を読み解く ![]() |
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