『孤独のグルメ』原作者・久住昌之が語る谷口ジローへの思い「画が繊細で、実際より魅力的になる」
2月11日、谷口ジローさんが亡くなった。69歳だった。近年、体調が思わしくない、入退院を繰り返している、とは伺っていた。驚きと、そしてやってきた喪失感。「孤独のグルメ」への精根こめた作画によって、谷口さんはいつも付かず離れず、SPA!を支え、静かに見守ってくださった。久住昌之さんによる、パリを舞台にした次回作にも手をつけてくださっていたのに。我々は、谷口さんについてお話を伺いに走った。
まずはとにかく、『孤独のグルメ』原作者の久住昌之さんだ。執筆時の思い出、谷口作品への思いを聞いた。
――久住さん。谷口ジローさんが亡くなりました。正直、大きな衝撃でした。『孤独のグルメ』を含め、久住さんは谷口作品をどんな印象でご覧になっていましたか。
久住:『事件屋稼業』とかで谷口さんの作品を見てはいたんだ。シリアスなハードボイルドだったよね。だから、ボクが谷口さんと組むのはどうなのかな、と思ったんだけど。その後の「『坊っちゃん』の時代」くらいから、谷口さんはどんどん静かな作風になっていくんだよね。初めは、谷口さんもボクに「なんで久住さんと自分なのかな? 和泉(晴紀)さんが描けばいいんじゃないの?」とおっしゃっていた。
――お互いに間合いを測っていた?
久住:連載が始まってからも、谷口さんとあまり会わなかったんだよ。’94年の連載第1回は、山谷のドヤ街で始めたんだけど、当時は今と違って、山谷なんて若い人は絶対行かないところだった。当時流行りのグルメ物にしたくなかったんだね。山本益博さんとか、ミシュラン・ブームの後だから。みんながラーメンとかフランス料理のうんちくを語るようになって、「しゃらくせえ」って気分だった。オレも30代だもん。若かった。それで、アンチグルメにしよう、と。『孤独のグルメ』もグルメマンガと言われているけど、何を食べるかはいいんだよ。どうやって井之頭五郎が空腹を満たしていくか。お腹が減ってる状態からの脱出。脱出者の話。それで、1回目の8ページができてきたときに……。
――どうだったんですか?(笑)
久住:「おもしろいのかな、これ……」と。谷口さんが描くと、画が繊細で、実際よりも魅力的になるんだよね。商店街とか労務者、ボロい帽子をかぶったオッチャンが。現実はもっと汚くて、ヤバい雰囲気なのに。そこが逆におもしろいといえばおもしろいんだけど。
――谷口さんもしばらくの間は、「ホントにオレが描くべきなの?」と。
久住:何回目かのときに、谷口さんがボクに「どうですか?」と言ったことがあって。オレも実はよくわからなくてね。似たマンガがないし。
――1話読んだだけでは判断しがたい作品ではありますよね。
久住:第3話で浅草の豆かんを「うん! これはうまい」と食べる表情を描いたとき、何かを掴んだとおっしゃっていたね。このあたりからマンガらしくなってきた。第7話の大阪のたこ焼き屋台が一番苦労したそうです。狭い空間の人物配置、構図とかセリフの展開のさせ方とか。ボク、逆にこういう集団シーンの言葉の応酬、記憶再現、割と得意なんです。
――同じころにお互いがグルーヴし始めたんですかね。
久住:続いていくうちに、井之頭五郎が旅人みたいな感じがしてきた。どこへ行くかって……旅行じゃないんだけどね。どこにいるんだ、この人は? 立ち位置はどこ?という。それで、常に谷口さんが描かなかった場所を描いてもらおうと、いわばロケ地を考えるようになった。
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