中本：いや、暴力はアカン！ ゴローさん、そういうとこあるぞ！ 覚えてないんですか、マッコリ事件。 ――マッコリ事件!? 全然覚えてない。 中本：以前飲みの席で、僕がある先輩からガチギレされたことがあって、そこにゴローさんもいたでしょう。俺が泣いて落ち込んでたら「いったん冷静になろう」って言って、俺を外に出してくれたんですよ、ゴローさんが。「サシで飲みながら慰めてくれるのか、やさしいなー」と思ったら、行った先はコンビニ。そのときは確か2月で真冬ですよ。「マジかよ、外飲みかよ！」と思ったんですが、まあゴローさんはやさしいなと思ったんです。それから1時間ぐらいコンビニの前で飲んでたのかな、俺がずーっとグチってたんですよ。そうしたらゴローさん変なスイッチ入っちゃって、コンビニで買ったマッコリのビンをガードレールでガシャン！ って割って、それを俺に突き付けたんですよ。それで「舐めんじゃねえぞ、三流芸人がっ！」って。 ――ごめん、全然覚えてない（笑）。いやだから、中本の良さを再発見しに来たんですよ、今日は。嫁と子どもに逃げられた40歳の芸人、吉本からの給料は月に1万7000円。そんなヤツが逆転するには、やっぱネタしかないでしょう。 中本：俺だって一発逆転してえよ!! ――そうだ、その意気だよ！ ネタは書いてるの？ 中本：書いたってウケないですもん！ ウケないものを書いたって仕方がないですよ！ 　 ――何なんだよ、その開き直りは！ 中本：ゴローさんだって、本当は俺のことを笑いに来たんだろ！ ――いや、それは誤解だぞ。芸人さんを前にしておこがましいと思うけど、芸人もライターも一緒だと思ってる。どちらも【売れるか／売れないか】【ゼロからイチを生めるか／生めないか】。お前が売れない芸人なら、俺は売れないライターだ。だからこそ、もがいてるお前には、売れてほしいんだよ。そのために、ネタを書けよ。 中本：だってね、時間がないんですよ！ 朝から夜中まで清掃のバイトしてたら、ネタ作るヒマなんてないですよ。バイトして金を嫁と子どもに送らなかったら、俺は離婚されるんだから！ 畜生！ 子どもを人質にして金取りやがって！ ――話が変わってきてるよ！ 中本：だから不幸話を漫才にしたんですよ。でもね、結局それはヨゴレなんですよ。みんな苦労してるし貧乏してる。それをネタにしたって、売れないことをさらけ出してるだけです。それで笑いを取れても、そんなの笑われてるだけ。俺はそれが嫌なんだよ！ 売れてる同期や後輩がテレビに出てる、悔しくて死にたくなるからテレビも見ない。そうすると人生、何の楽しみもない！ ――さっきから聞いてりゃ言い訳ばっかりしやがって、結局お前は芸のための努力をしてねえじゃねえか！ ちょっと待ってろ、ビンのマッコリ買ってくるから！ 中本：だから暴力、やめろや！ ――だから奥さんに逃げられるんだよ！ 中本：俺は嫁のために尽くしてきたわ！　やさしく接してきたわ！ ――例えば、どうやって？ 中本：『M-1』を嫁と一緒に観てたんですよ。それで嫁は「なんでこれに出てこないの？」って言うわけですよ。嫁からしたら人生を俺という人間に賭けてるわけですから、切実です。簡単に「うるせえ」とは言えない。だから嫁に、「決勝の舞台には行けなかったけど、俺、準決勝までは行っとるで」と言ったんですよ。それを毎年言ってる。だから嫁は、9年連続準決勝まで行ってると思ってるんですよ。 ――はぁぁぁ……それ、凄いね。去年の準決勝敗退でいえば、メイプル超合金や学天即といった実力派ばかりだぞ。そこに9年連続残っていると……。 中本：しょうがねえだろ！ 新人ならいざ知らず、このキャリアで「3回戦で落ちた」と言えます？ 結果を欲してる嫁に、この現状を言えます？ ――談志師匠の言葉で「現状が正解なんだよ」っていう名言があるけど、まさにそうだよ。現実を受け入れるしかないだろ。しかも夫婦は運命共同体なんだから、ウソついてどうすんだよ。 中本：あのウソは、嫁へのやさしさだわ！ そして、現実みたら、嫁に逃げられたわ！ 俺はどうすりゃいいんだよおおおおお!! （※聞けば聞くほど出てくるのは、クズエピソードばかり！ 果たして、ド底辺芸人・中本の良さを再発見できるのか？ そして次回は、中本の自宅でベロベロに酔ったゴローが、“リモコンにケチャップ”などやりたい放題!? 怒涛の完結編へ！） 【村橋ゴロー】 1972年生まれ。ほとんどの家事とまあまあの育児をこなす、ライター・コラムニスト。千原ジュニアや田村淳など芸人連載の構成を多数手掛ける。その一方、ママ向けサイトit mamaでは、「どの口が言ってるんだ」という感じだが、妊活や育児についてのコラムを執筆中。また、『ゴー！　ゴー!!　バカ画像MAX』シリーズ（KKベストセラーズ刊）は累計190万部を突破。近著に『俺たち妊活部「パパになりたい！」男たち101人の本音』（主婦の友社刊）がある。Twitterは、 @muragoro ＜取材・文／村橋ゴロー、撮影／藤井敦年＞