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X JAPANが世界に認めさせたメイド・イン・ジャパンの音楽文化“ヴィジュアル系”とアニソンの深~い歴史【山野車輪】

90年代にジャパメタを淘汰したV系

 初期のV系シーンは、「気合い」だの「伝説」だのといった日本の暴走族的、地方のヤンキー的なセンス、そして体育会系的上下関係(頂点は当然、X JAPAN)で成り立っていた。また、音楽よりもヴィジュアルを重視したスタンス、そして耽美で繊細なV系バンドの世界観は、洋楽ヘヴィメタルのマッチョなそれとは真逆だった。  80年代に活躍したジャパメタ・バンドが、彼らと上手くやっていけるはずがなかった。“洋高邦低”意識を持って洋楽ヘヴィメタルの支流下に属していたいと考え、音楽を重視するスタンスで活動していたのだから。ジャパメタ・シーンを形成していた80年代の主要なバンドは、V系バンド勃興の影で、に次々と解散・消滅した。  ジャパメタ・リスナーは、その多くがV系バンドを嫌悪した。かつてパンクがメタルに駆逐され、メタルがパンクから嫌われたように、今度はメタルがV系に駆逐され、V系が嫌われる順番が巡ってきたということだろう。そして、メタルはパンクからの嫌悪を気にも止めなかったように、V系もメタルからの嫌悪を気にも止めていない。嗚呼、歴史は繰り返す。

ラルクにGLAY にZI:KILL……V系バンドによるアニソン

 V系に括られるバンドの中には、アニソンを任されるバンドも少なくなかった。この点については、80年代ジャパメタを継承しているとも言えよう。ZI:KILLは、TVアニメ『バトルファイターズ餓狼伝説2』(1993年)に、GLAYは、TVアニメ『ヤマトタケル』(1994年)に起用されている。  1996年、『るろうに剣心――明治剣客浪漫譚――』のTVアニメが放送され、一般的にV系と認知されているL’Arc~en~CielやSIAM SHADEがエンディングテーマを任された。同作のオープニングテーマには、ジャパメタ・バンドPRESENCEのメンバーだった恩田快人がリーダーを務めるJUDY AND MARYの「そばかす」が起用され、オリコンチャート初登場1位を獲得している。また、劇場用アニメも上映された。エンディングテーマ「永遠の未来」は、アニメタルによるものだ。  1998年放送のTVアニメ『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!! マサルさん』にはPENICILLINの「ロマンス」、翌1999年放送のTVアニメ『神風怪盗ジャンヌ』には、SHAZNA、Lastier、Pierrot、HIBIKI(D-SHADE)の4組のV系バンドが主題歌を任されている。以降も多くのV系バンドがアニソンを唄っており、この事実から、V系とアニメは親和性が高いと言えよう。  後にV系シーンには、アニメやゲームのキャラクターのようなコスチュームを纏ったPsycho le Cému(2002年にメジャー・デビュー)のような、オタクとクロスオーヴァ―したバンドも現れた。また、MALICE MIZERのManaによって広がったゴシック&ロリータ(ゴスロリ)ファッションは、オタクとV系の両者から支持されている。  ジャンルのボーダーレス化が進んだことにより、オタクとV系の間にあった垣根は、ずいぶん低くなったと思う。

極めて日本的なV系というジャンルの自由さ

 V系バンドがヴィジュアルを強化・洗練させたことで、シーンには大量に女性ファンが流入した。また続々と若いバンドが登場し、V系はJポップの一大勢力となっていった。  V系は後に、音楽的にも質が向上していった。だがV系のリスナーが音楽を求めているとは限らない。音楽面のクオリティを上げるのではなく、ルックスのクオリティを上げたり、ホストの営業活動のように女性ファンの獲得活動に力を入れたり(男性ファッション界に“Vホス系”というジャンルもある)、お笑いの要素を入れるなど、さまざまな方向へ発展していった。さらには演奏しないバンドまでも登場した。それもまたV系というジャンルの自由さだろう。  そしてそのようなあり方は、島国である日本の独自性であり、八百万の神様がいると考える日本人の特異性でもある。外国人は近年、洋モノのコピーでない、または洋モノのコピーを突き抜けた日本のオリジナリティを評価しているのである。
(やまの・しゃりん)漫画家・ジャパメタ評論家。1971年生まれ。『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)シリーズが累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても有名。最新刊は『ジャパメタの逆襲』(扶桑社新書)
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ジャパメタの逆襲

LOUDNESS、X JAPAN、BABYMETAL、アニメソング……今や世界が熱狂するジャパニーズメタル! !  だが、実はジャパニーズメタルは、長らく洋楽よりも「劣る」ものと見られていた。 本書は、メディアでは語られてこなかった暗黒の時代を振り返る、初のジャパメタ文化論である。★ジャパメタのレジェンド=影山ヒロノブ氏(アニソンシンガー)の特別インタビューを掲載!

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