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「試合に勝った方が強い」伝説のキックボクサー藤原敏男の勝負論<最強レスラー数珠つなぎvol.14>

――10数年前ですが、全日本キックのコミッショナーだった石原慎太郎さんが雑誌のインタビューで「元々キックは、ショーの要素があった。全日本キックはそれを排除した」と話しています。 藤原:格闘技をやってる人からすれば、ボクシングでもなんでも、八百長だとかなんだとか言う人がいますよね。けど、そんなことはない。キックを八百長だなんて言ってる奴がいたら、ふざけんなって怒るよ。みんなが遊んでる間に、飲まず食わずで、朝から晩まで真剣に練習やってる連中がほとんどなんだから。人間の命に関わることなんだよ。レスラーも相撲取りも、みんな早死にするじゃない? いつ死ぬか分からない。頭にくるけど、言いたい奴には言わせておけばいい。 ――勝敗だけじゃなく、お客さんに“魅せる”ということは意識しますか? 藤原:いちいち、そんなことは考えてないよ。考えてないけど、無心で闘って、やられたらやり返す。その必死の闘いが、お客さんに感動を与えるわけ。「危ない、危ない! 頑張れ!」って、応援の声が聞こえる。そうすると、また燃えてくる。魅せるとかそういうもんじゃなくて、必死に闘っている姿が、お客さんの心を打つから感動を与えるんだよ。そうじゃなかったら、意味がない。だったら、アマチュアでやればいい。プロっていうのは、お客さんからお金を取ってるんだから。 ――勝敗と強さはイコールですか? 藤原:イコールだと思うよ。リングに上がった以上、勝たなければ意味がない。ドローになったら負け。判定でもなんでも、勝たなければ。いい試合かどうかよりも、とにかく勝つこと。 ――プロレスは時に、勝つことよりもいい試合かどうかが重視されます。 藤原:けど、勝ち負けにこだわらない人はいないと思うよ。勝った方が強いんだよ。 ――この連載では「強さとはなにか」を探っているのですが、藤原先生にとって強さとはなんですか。 藤原:俺は強さに憧れた。でも強さを覚えていくにつれて、乱暴さが消えていく。そして愛に変わってくる。だから、男の強さとは、愛である。これが70歳になって、格闘技人生を生きてきた男の最後の言葉。昔は佐山先生と一緒に暴れもしたけど、暴言、暴力は絶対にダメ。自分の気持ちを愛で包んで、優しい言葉で相手に伝えていかないと。みんなね、自分一人で強くなって生きてるわけじゃないから。 ――最後に、藤原先生が最強だと思う人を指名していただけますか。 藤原:藤原喜明。カール・ゴッチさんのところで下積みして、関節技は組長がトップだよね。女殺しでも最強(笑)。酒飲んで暴れるところも。昔から、会うと喧嘩ばっかりしてるの。でも俺がやってる藤原祭りっていう興行に、タイガーマスクとレギュラーで出てくれてて、俺と組長はリングの上で一升瓶持って暴れる。大会の中盤でやるから、後の試合が酒臭くて仕方ないんだよ(笑)。格闘技で一番強いのは、プロレスラーなんじゃないかと思うよ。 ――なぜですか? 藤原:レスラーは肉体を痛めつけるじゃないですか。そういった意味で、打たれ強いというのかな。デカいし、パワーもあるし。とてつもない技を使うしね。跳んだり跳ねたり、空中殺法なんて立ち技の我々には到底できない。さらに、お客さんを楽しませるでしょ? ありとあらゆる面で、レスラーが一番強いと思う。藤原組長と飲んでて首をグッと絞められたことがあるけど、太刀打ちできなかった。敵わないなと思ったよ。 ――ありがとうございました。  勝った方が強い――その言葉を、私はずっと求めていた気がする。初めて書いたプロレスの記事で、「プロレスは最強より最高」というフレーズが佐藤光留の怒りを買った。それからというもの、プロレスにおいて強さとはどういう意味を持つのか、寝ても覚めてもそればかり考えてきた。勝敗なんて関係ないんじゃないか? いい試合をすれば、それでいいのではないか? しかし、応援している選手が負けると悔しい。その日の晩は眠れないほど、悔しい。今回、藤原敏男の勝負論を聞いたことで、私の中で一つの答えが見つかった気がした。勝った方が強い。格闘技の試合に限ったことではない気がした。  インタビューの一週間後、私は再び藤原に会いに行った。彼の弟子や仲間が集う飲み会に参加させてもらったのだ。藤原敏男の周りには、人が集まる。伝説のキックボクサーとして尊敬されているからというのもあるだろう。しかし、それだけではない。格闘技的な強さだけではない。もちろん、酒の強さでもない(それもある気がするが)。不思議と人を引き寄せる力がある。魅力的な人だ。  前回、「佐山サトルは孤独」と書いた。天才であるがゆえに、だれからも理解されないと。しかし、間違っていた。藤原は佐山と10日に1回、飲みに行くという。45年来、師弟関係にある人と、いまでも10日に1回飲みに行くのだ。佐山サトルには、藤原敏男という最高に素敵な友達がいる。藤原にもまた、佐山をはじめとする仲間たちがいる。69歳になっても、多くの人に囲まれて暮らしている。  藤原は私に、たくさんのことを教えてくれた。格闘技は八百長なんかじゃないということ。強さとは愛だということ。年を取っても、孤独ではないということ。そして飲み会で教わった酔拳を、私は生涯忘れないだろう。 【PROFILE】藤原敏男(ふじわら・としお)  1948年、岩手県宮古市田老鉱山生まれ。高校卒業後、上京し、中央工学校・夜間部で設計の勉強を始める。1969年7月、目白ジムに入門し、黒崎健時の指導を受ける。同年10月1日にキックボクサーとしてデビュー。全日本ライト級王者を経て、1978年、外国人として初めてムエタイの頂点・ラジャダムナン王者となる。1983年引退。現在は、藤原スポーツジムにて後進の育成や、ジャパン・マーシャルアーツ・ディレクターズ(JMD)の理事長を務める。 <取材・文/尾崎ムギ子 撮影/安井信介>
尾崎ムギ子/ライター、編集者。リクルート、編集プロダクションを経て、フリー。2015年1月、“飯伏幸太vsヨシヒコ戦”の動画をきっかけにプロレスにのめり込む。初代タイガーマスクこと佐山サトルを応援する「佐山女子会(@sayama_joshi)」発起人。Twitter:@ozaki_mugiko
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◆「MRTIAL ARTS ONLINE CLASS」

公式サイト:https://martialarts-onlineclass.com/

YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=IrB0gl5SvNM

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