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困窮する母子家庭にお弁当を。飲食店で巻き起こるシングルマザー支援ムーブメント

調理場から配達員まで。急速に広がる“支援の輪”

 日に日に増え続ける応募に、当初は電話やメール、SNSのDMで対応していたが、あっという間にパンクした。また、緊急事態宣言の延長でプロジェクトの終わりも見えなくなるなど、体制の強化が喫緊の課題となった。 「僕自身はどちらかというとアナログな人間なのですが(笑)、従業員のなかにデジタルに強いやつがいて。システムを導入してくれて効率化が進みました。また資金面に関しても『クラウドファンディングをやってみたらどうでしょう?』という提案をしてくれるやつもいて、動きが一気に加速しました」  笹さんたちの取り組みがNHKのニュースで取り上げられると、お弁当の応募だけでなく、港区の子供たちを支援する「みなと子ども食堂」などNPO法人からも問い合わせが来るようになった。図らずも、活動が地域のセーフティーネットとの連携に及びはじめているのだ。

極力経費を抑えるため、配達には自転車シェアリングを利用。配達範囲は港区の範囲を超え、都内8区に拡大。杉並区でも配達を開始した

「当初は自分の店の厨房で作っていたのですが、200個以上作るようになると手狭になった。そうしたら、やはり近隣の飲食店オーナーが広いキッチンを無償で間借りさせてくれることに。配達要員も足りなくなって困っていると、近くの飲食店で働く若いスタッフたちが『休業で手持ち無沙汰なので、手伝わせてください』と、手を挙げてくれた。『シングルマザーと、その子供を元気にしたい』と思って始めたことですが、支援の輪が自然と広がっていくことに僕たちもやりがいを感じ、お礼のメッセージや手紙をもらうことも多いんです。逆に元気を頂いています」

配達員たちに手渡されるお礼の手紙の数々

「満腹になれば、自然と笑顔になれる」

 この日、渋谷区のシングルマザー宅にお弁当を届けた笹さんは、支援の反響から気づいたことをこう語ってくれた。 「経済的な困窮はもちろんですが、シングルマザーの多くがいかに社会的に疎外感を抱えているのか。改めて母が僕を育てた苦労を実感しました。  それでも僕の子供時代はまだ、アパートの住民同士の交流もあったし、団地の鍵はかかってなかったくらい牧歌的でした。僕も“ひとり親あるある”で思春期には見事にグレたりしたんですが(笑)、生活は逼迫していても孤独を感じた記憶はあんまりないんです。  お弁当を届けた先でお母さんや子供たちの様子を見ていると、何よりも孤独であることへの不安を解消する必要があると思います。満腹になれば、自然と笑顔になれます。食事の時間を少しでも楽しい時間にしてもらえれば嬉しい。本業ができなくても、飲食を生業にしている自分が今できることを続けたいと思います」  深刻な打撃を受けた飲食業界にいながら、シンママ世帯に光を射すべくプロジェクトを回す笹さん。このような動きがいっそう広まることを期待せずにはいられない。 INGプロジェクト2020~お弁当でシングルマザーの力に~ 新型コロナの影響で仕事がない、収入減少で困っているシングルマザー、シングルファーザーで、未就学児から高校生までの子供がいる家庭は、3個までがお弁当を応募できる。対象地区は、港区、品川区、目黒区、渋谷区、新宿区、千代田区、中央区、杉並区(5月16日時点)。 取材・文/仲田舞衣 撮影/高橋宏幸
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