次に検査陽性率の都道府県別統計を示します。
内閣官房モニタリング検査陽性率(左軸・青線・対数)と検査数(右軸・赤棒・線形)の推移14都道府県週次合計(最終週は暫定値)
2021/09/30公開(最終週は暫定値) 出典:内閣官房、データcsv
14都道府県の合計では、検査数が2万〜6万検査/週であることもあって5月以降は統計として読める程度には精度が出ています。特に第4波の指数関数的減衰と第5波の指数関数的増加はかなり良く再現できています。但し、第5波の減衰過程は直近が暫定値なので1〜2週間ほど待つ必要はあります。サンプル数が4桁ですので1000分の1の桁までは実用精度が出ていますが、一万分の一(100ppm,0.1‰)の桁は十分な精度がなくとりあえず何か見えている程度です
筆者は、第5波の全国での開始時期は6月第3週と判定していますが、内閣官房モニタリング検査では7月第2週であるように見えます。しかし、陽性率が0.3‰ですのでサンプル数が不足しており有意差があるとはいえません。
内閣官房モニタリング検査陽性率(左軸・青線・対数)と検査数(右軸・赤棒・線形)の推移東京都週次合計(最終週は暫定値)
2021/09/30公開(最終週は暫定値) 出典:内閣官房、データcsv
内閣官房モニタリング検査陽性率(左軸・青線・対数)と検査数(右軸・赤棒・線形)の推移大阪府週次合計(最終週は暫定値)
2021/09/30公開(最終週は暫定値) 出典:内閣官房、データcsv
次にサンプル数が一番多い東京都と二番目に多い大阪府をグラフ化してみます。東京都は、東京都モニタリング検査の半分程度のサンプル数で、だいたい同じ結果が出ています。また1‰以下では誤差が大きく有意差が出にくくなっています。
大阪府は、サンプル数が2000〜5000しかないために、肝心要の感染者数が減った状態=谷間が見えなくなっています。見えている領域も2‰以下は、ほぼ有意差が無くなっています。
他の12道府県は、サンプル数があまりにも少なく、肝心な1‰以下が殆ど見えていません。むしろ8月の千葉県のようにサンプル数の過少とデータの揺らぎからくる異常値に驚かされるだけで、使い物になりません。
一方で、感染者数がまだ多い9月に岐阜県と愛知県が示した陽性率の高さは、県別日毎新規感染者数の統計とも一致しました。
内閣府モニタリング検査は、Surgeの兆候や発生地を検知して迅速に対応することに使えるでしょうか。答えは「
全く使えない」です。
現状では、市中感染者数が0.1‰ (100ppm)の桁で精度良く動向を検出できなければ波の前兆を判定できません。しかし現状では、サンプル数が一桁過少で1‰の桁の後半までしか精度が出ていません。なおニュージーランドや台湾を目指すには、更に2桁から3桁高い精度が必要であり、むしろ正攻法でウイルスの殲滅をする方が遙かに楽です。
「感染拡大の予兆の早期探知」という目的のためには、各都道府県で
最低でも1万サンプル/週は必須であり、現状の全国5万検査/週の実績に対して最低でも15万検査/週は必要です。実用精度を出すためには
100万検査/週は欲しいところです。
また
集計の遅延も大きすぎです。、現在検査後約1週間で集計が公表されていますが、実際には翌週に大きな修正が相次ぎ、使える数字が出るまでに2週間を要しています。これは日毎新規感染者統計と遅延が変わりません。
このモニタリング検査は、
厚労省が創り出し、一部の破廉恥な医療従事者と医学者達がばら撒いたPCR検査抑制のための
ジャパンオリジナル国策エセ科学・エセ医療デマゴギーの為に検査不足に陥り、疫学統計の精度が著しく低いため編み出したものと考えられます。しかし、統計調査はその目的のために手法や規模を事前に詳細な設計をしなければなりません。サンプルの桁での不足など論外です。
内閣官房モニタリング検査には、疫学・統計調査に必須な事前設計の痕跡が全くなく場当たり的にやっているだけです。その結果、サンプル数が一桁から二桁足りないという無様なことになっています
。やるだけ無駄な税金と資源と時間の無駄そのものとなっています。
勿論無料検査を受けて、陽性判定がでた千人足らず(968人)の人々は、医療機会を得、感染拡大を断ち切る好機となります。また筆者のような統計観測者にとってはデータが増えることはうれしいことです。それ以外には、20歳代以下の世代で陽性率が目立って高いことが分かったくらいでしょう。
この内閣官房モニタリング検査の最大の成果は、「PCR検査の特異度は99%とか99.9%」といった、厚労省が創り出し、一部の無知蒙昧且つ破廉恥な医療従事者と医学者達がばら撒いた荒唐無稽な
国策エセ科学・エセ医療デマゴギーが全くの嘘であることの実証となったことと言えます。なにしろそんなに特異性が低ければ、検査規模が第31週現在で累計約80万人の内閣官房モニタリング検査では偽陽性が8000人(特異度99%)または800人(特異度)99.9%でるという結果となります。実際には累計陽性者数が968人ですので、これまでにご紹介した統計分析は全くなり立たず、統計分析者であろうとなかろうと異常がすぐに検知できます。またそれだけの偽陽性者が出ていればこの事業自体が臨床医からの苦情殺到で報道され、継続不能となります。
PCR法の特異度は、原理的に100%であり、実運用でも99.999〜99.9999%であり、更にエラー検知が常時運用されておりダブルチェック、トリプルチェックされますので臨床上は事実上100%と扱うものです。
世界の検査政策分布 (茶色の14カ国が発症者かつクラスタのみ検査)
本邦はこの14カ国の中でも際立って検査を抑制している
OWID
ジャパンオリジナル国策エセ科学・エセ医療デマゴギーに基づく検査抑制政策を直ちに撤廃し、世界の趨勢である何時でも何処でも誰でも無償でPCR検査を出来る様にすれば良いだけです。
最後に本邦のCOVID-19エピデミックをガリレオの「斜面台の実験」に例えた秀逸な図式化を中国科学院大学温州研究院教授の瀬戸亮平博士が
Tweetされていますのでご紹介します。夏の神風とも言える台風が切っ掛けで得た2度目の好機に玉を上に上げてしまう=終息させねばなりません。また玉を落とせば世界からの笑いものです。
<取材・文/牧田寛>
まきた ひろし●Twitter ID:
@BB45_Colorado。著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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