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神宮外苑再開発の陰で蠢く政治家たち<ノンフィクション作家・山岡淳一郎氏>

ラグビー場と野球場を入れ替える理由

―― 現在の再開発計画では、いま明治神宮第二球場がある場所にラグビー場をつくり、秩父宮ラグビー場があるところに新たに野球場をつくることになっています。つまり、ラグビー場と野球場の場所を入れ替えるということです。なぜわざわざこんなことをする必要があるのでしょうか。 山岡 神宮球場の集客力をあげるためだと思います。明治神宮野球場や第二球場はJR千駄ヶ谷駅や信濃町駅に近く、秩父宮ラグビー場は東京メトロ外苑前駅や青山一丁目駅の近くにあります。これを入れ替えると、野球場が外苑前駅や青山一丁目駅に近づき、ラグビー場が千駄ヶ谷駅や信濃町駅の近くに位置することになります。  野球場とラグビー場を比べた場合、野球場のほうが人をたくさん集めることができます。外苑前駅や青山一丁目駅は複数の路線が乗り入れており、アクセスが良いので、場所を入れ替えればさらに多くの人が野球場にやってくると見込めます。  しかも、再開発に伴い、さらに高層のビルを建設することが容認されたため、野球場のそばには約190メートルと約185メートルのビルが建つことになりました。ここにはオフィスや商業施設が入るので、青山一帯と連動させて集客を期待できるわけです。  明治神宮野球場や第二球場は明治神宮が所有しており、ドル箱中のドル箱です。明治神宮にとって非常に都合のいい計画になっていると思います。 ―― ユネスコの諮問機関である「イコモス」という組織の日本国内委員会が、樹木伐採を回避する代替案を出しています。それによれば、樹木は2本しか伐採せずに済むそうです。こちらのほうが魅力的です。 山岡 日本イコモスの案は野球場とラグビー場を入れ替えず、現在地やその近くで再建するというものです。野球場にしてもラグビー場にしても、その場で建て替えれば大規模な工事は必要ないですから、伐採する樹木もわずかで済むのです。  しかし、ディベロッパー側からすれば、大規模な工事をしなくていいということは、それだけ旨味が少ないということになります。また、野球場やラグビー場を現地で建て替える場合、競技ができない期間が延びる。他方、場所を入れ替え、順番に建て替えれば、競技を継続しながら工事を行うことができます。明治神宮としては、競技場が使えない期間が長引くことは何としても避けたいということだと思います。

政官業で利権を分け合う構図

―― 老朽化した設備の補修や建て替えは必要だと思います。しかし、地球温暖化対策やSDGs(持続可能な開発目標)の重要性が叫ばれている今日、大規模な再開発はあまりにも時代遅れです。 山岡 日本のGDPに占める建設投資額の割合は、この20年間ほとんど変化していません。2002年の数字を見ると、GDPは485兆円、建設投資額は57兆円、GDPに占める割合は約12%でした。2021年の数字を見ると、GDPが536兆円、建設投資額は63兆円なので、やはり12%程度です。  しかしこの間、建設業界では大きな変化が起こっています。建設業の就業者数を見ると、2002年は620万人ほどでしたが、いまは500万人を割り込んでいます。建設会社の数も減っています。  それにもかかわらず、建設投資の対GDP比が維持されているのはなぜか。それは、大手ゼネコンにこれまで以上に利益が集中しているからです。実際、大手ゼネコンの経営状況を調べてみると、2010年には大手29社の売り上げの合計は10兆円を割っていましたが、2017年には13・9兆円、2019年も12・6兆円となっており、大幅な増加が見られます。  官が大規模プロジェクトを企画し、それを大手ゼネコンが受注して利益をあげ、政界や官界に還流させる。まさに土建国家そのものです。一昔前の日本では、官主導で地方の土木建築や住宅開発などが行われ、その利益を政官業で分け合うという構図が見られました。最近は土建国家という言葉はあまり使われなくなりましたが、都市再開発という形に変わっただけで、この構図自体は何も変わっていないのです。  最近の例をあげると、東京オリンピックの選手村の建物は「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」という分譲マンションに転用されていますが、ここには三井不動産を筆頭に大手ディベロッパー11社が関わっています。東京都はこの土地を時価の10分の1程度の値段で払い下げましたが、実はこれらの事業者に東京都の局長クラスなど21人のOBが天下りしているのです。これは結局、仲間内で利益を分け合っているだけですから、こんなやり方を続けている限り、日本経済が発展することはないでしょう。
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小池知事はストップをかけるか
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げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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月刊日本2022年7月号

【特集1】安倍晋三よ! 永田町から退場せよ
【特集2】神宮外苑再開発 鎮守の杜を守れ

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