俺の夜
【俺の夜特別編「俺の遊び」】
テレワーク中に孤独感が深まり、飲酒。効率がまったく上がらず反省するも、仕事仲間に誘われたZoom飲みでは寝落ちし赤っ恥。コロナ禍による緊急事態宣言はジワジワと俺にダメージを与えている。
昼間、気分を変えようと散歩をしていると、学生時代を過ごした街に出た。この時期、通常なら学生でごった返す駅前は閑散。それでも二十数年前の記憶を頼りにキャンパス方面へと足を延ばす。かつて通った商店街はテナントの多くが変わっている。そのなかに何度か安焼酎を買った酒屋を発見したが恐らく場所が違う……。
おぼろげな記憶を辿りながら「もちだ酒店」の店先を覗くと「酒屋×テレワーク」という文言が躍っている。おっさんには皆目見当のつかない文字の組み合わせだ。
店先に座るお母さんに尋ねると「奥へどうぞ」と案内された。
ここはスタバか!? 黙々とPCに向かう人々
ビールケースがうずたかく積まれた先には「飲み処」の赤ちょうちん。しかし、カウンターやテーブルでは数人が一心不乱にパソコンに向かっているではないか。
「ここは角打ち風の立ち飲みなんです。コロナで営業時間を短縮せざるを得ないので、昼間の時間、店を開けてコワーキングスペースとして貸し出すことにしました」 カウンター内で仕込みをしながら答えてくれたのは店主の清武大貴さん(28歳)。角打ちながら電源、Wi−Fi完備。2時間半、カウンターなら1000円、テーブル席なら1200円、ソフトドリンク3杯、もしくはアルコール1杯がつく。開け放たれた店は風通し抜群、三密には気をつけている。 店先のお母さんがことの経緯を説明してくれた。「このコは元ウチのバイトなんです。昭和23年から続く酒屋を閉店しようかと思っていたら、奥の倉庫を改装して居酒屋を始めたいっていうんで、もう勝手にしなって」
クラウドファンディングで資金を集め、調度品を揃えた。酒屋本体も閉店を撤回し、昨年10月に角打ち風「居酒屋もちだ」としてリニューアルオープン。店主の清武さんは早稲田大学OB。朝井リョウの『チア男子!!』のモデルとなった男子チアリーダーチームの主将を務めていたという人物なのだ。
「僕が現役のころと比べて元気がなくなってしまった、早稲田の街を盛り上げたいと居酒屋を始めました。店を開くことでOBや学生、そして地域の人々を繋ぐ止まり木になると思ったんです」18時になれば居酒屋タイムに
聞けば、休講を余儀なくされている早稲田大学のオンライン授業をここで受けられるようにしたり、Zoomを使った学生向けのセミナーを企画するなど、もはや酒屋の範疇を超えている。
「ここからオンラインで発信するのも、いずれはオフラインの場として人に集まってきてほしいから。交流の場として地域に貢献できたら嬉しいですよね」
地域を愛する後輩の言葉に胸を熱くしつつ、俺もパソコンに向かう。所変われば、仕事も遊びのように捗る。気がつけば18時。照明がつき、黙々と作業をしていた人たちはパソコンをしまい、椅子をどかして酒屋の冷蔵庫に向かう。
「ここからは居酒屋タイムです」
俺も冷えた瓶ビールを取り出し喉を“うがい”。20時までの2時間は机を並べた“仲間”と酒を酌み交わし、話に花を咲かせる。俺の当面の仕事場は決まった。
【居酒屋もちだ】住:東京都新宿区西早稲田3-1-3
営:13〜18時(テレワーク)、18〜20時(居酒屋)
休:木曜
●最新の営業状況、問い合わせはTwitter(@WasedaMochida)で要確認
撮影/渡辺秀之
小池百合子東京都知事は新型コロナウイルス対策において、3月30日夜の緊急記者会見で無慈悲にもこう告げた。
「若者にはカラオケ・ライブハウス、中高年にはバー・ナイトクラブなど接待を伴う飲食店に行くのは当面お控えいただきたい」
中高年の我々にとっての楽しみである「接待を伴う飲食店」とはおおまかにいえば、キャバクラであり、ガールズバーだ。それが奪われてしまう――。
この連載始まって以来の危機に見舞われそうなとき、俺は東武東上線に揺られていた。降り立ったのは埼玉県朝霞市。「自粛要請」が発令された東京都の境からわずかひと駅の場所。終戦後には、米軍キャンプが置かれ、今では自衛隊が駐屯する「基地の街」というイメージだが……。
おなじみ夜遊びガイドのO氏が「超入りづらいガールズバーを見つけたんで、このご時世は承知ですが、一緒にいきませんか」と写メを送ってきたからだ。
’00年代の「浄化作戦」後の歌舞伎町の光景を彷彿とさせる「白看板」。赤マジックで弱々しく躍る「高級おんなバー楓」の文字。「かえで」は「木」と「風」がそれぞれ読めそうなぐらい離れており、尋常ではない雰囲気を醸し出している。
一見を寄せつけぬ看板とビルの佇まい
西口と比べてかなり静かなほう、朝霞駅東口から徒歩3分の古風で無骨で、ひときわ目立つ雑居ビル。地方都市にありがちな一見を拒む「怖そうなビル」があった。
階段横には写メで見た「白看板」。階段を上がると再び手書きの看板。今度は大きく余白を残して「高級おんなバー」と決して上手とは言えない手書き文字で書かれている。
恐る恐る重い鉄製のドアを開ける。そっと中を覗き込むと、女のコと目が合ってしまった。
「いらっしゃいませ〜!」意を決してドアを開けると、エントランスにずらりと並ぶ靴。そのまま上がり込もうとしたO氏に「土禁! 土禁!」との声が飛ぶ。
広いフロアの周りにカウンター、女のコをぐるりと囲むように男性客が高椅子に座っている。聞けばここは和風ガールズバー。床にはなぜか玉砂利が敷かれていたり、行灯があったりと妙に落ち着いた雰囲気。靴を脱いで上がる。
「朝霞で唯一のガールズバー。スナックはあるけどキャバクラはないから、若いコと飲むならここだと、結構お客さんが来ますね」なるほど、諸先輩方から若者まで幅広い年齢層が集っている。
説明してくれたさーりちゃん、ゆうなちゃんと乾杯しつつ、外の「白看板」について尋ねる。
「以前はちゃんとした看板だったんだけど、あるときから手書きにしました。怪しげな雰囲気が出ちゃって、今ではインスタに載せるお客さんが続出するほどなの!」
客が消したり、勝手に文字を書き加えたりと、さながら「落書きボード」。よく見ると文字が消えかかっていたりとカオスだ。
サブスクも導入! 朝霞で唯一のガールズバー
カオスと言えばその値段設定。
「通常1セット60分飲み放題で3500円だけど、サブスクもやってるんですよ!」
と胸を張るりなちゃん。朝霞とサブスクのミスマッチたるや。この3月から始めたというこのシステム。3回通って「常連認定」されれば、晴れて3万円で1か月何度通っても定額という料金プランの選択権が付与される。すでに10人ほどの常連さんがその恩恵を受けているそうで、連日訪れる猛者もいると聞く。
カラオケをする人、女のコに囲まれダーツをする人、しっぽり飲む人、靴を脱ぎくつろぐこの店は「緩やかな時間」が流れている。殺伐とした都内からひと駅下るだけでこんなに穏やかに飲めるものなのか。サブスクの権利を獲得するまで通ってみようか……。【がーるずばー楓】
住:埼玉県朝霞市仲町2-2-11 セイコーガーデン朝霞202
電:090-2319-8607
営:21:00〜ラスト
休:日
料:60分1セット3500円(焼酎・ウィスキー・ブランデー飲み放題)、サブスクリプション制1か月3万円(上記飲み放題+ダーツ+カラオケ歌い放題)
協力/O氏(夜遊びガイド) 撮影/渡辺秀之
春の訪れを感じる今日このごろ。旨い飯でも食べて、そのあと、女のコがいる店を冷やかそうと考えていたところ、夜遊びガイドのO氏から「中野に来ませんか? 腹空かせて来てくださいよ」と電話が。
中野駅北口を出て、飲食店やキャバクラが無数にある雑多な通り。夜ごと界隈を徘徊していたエロ本時代を思い返しながら、中野ブロードウェイの辺りに行く。目指す店が見当たらず、氏に電話すると、ラーメン店の2階と思しき階段からO氏がひょっこり現れた。
極細の階段、真っ白な暖簾に「ゆきみさけ」の屋号。ここは一体?
料理自慢のママの過剰な「おもてなし」
トントンと階段を上がるとカウンターのなかには美女が。
「お飲み物なに召し上がります?」ガールズバーかと思いきや、まさかの小料理屋。手際よく注いでくれた生ビールを舐めていると、目に飛び込んできたのはカウンターの上にズラリと並べられた大皿。
「10種類から1品選んでください。これがお通しになります」
筑前煮、がんもと厚揚げ煮、鶏モツ煮込み、マグロの甘辛煮……。どれも旨そうで迷う。小松菜とがんもの煮浸し、たけのこ煮をそれぞれ選ぶと、ママがこんもりと盛りつけて渡してくれた。え!? これ1人前?
「お客様の喜ぶ顔が見たいから、ついついサービスしちゃうの。これだけでお腹いっぱいになると言われることもあるけど……」
とコロコロと笑うママ。心意気にビールをご馳走すると「はい、サービス」とこれまたてんこ盛りの大根と豚の角煮の“ご返杯”。
昼の13時半から開店ギリギリまで仕込んでいるという手作りお通しの数々。開店後もひとりで切り盛りしている。福島県出身のママはなるべく地元の食材にこだわって料理を作っているのだという。
「少しでも福島の力になりたくて、東日本大震災の後にこの店を始めました。以前は地元産の野菜や米は実家の母が送ってくれていたんです。母が亡くなって全部というわけにはいかなくなったけど、ウチで出している県産のお米は最高級品。絶対食べていってね」
毎日店で玄米を精米し、お客に食べさせるご飯。「くれぐれもそれまでお腹いっぱいにしないで」と、どの客にも念を押すほど。
気前の良すぎる盛りに酒もグイグイ進む
あまたあるメニューに目移りしていると、「ウチの名物よ」と出されたのは「天然本マグロのブツ刺し」。脂の乗ったピンク色の中トロが豪快に盛られた逸品は、舌先でさっと溶けてしまうほど。
豊洲で毎朝仕入れる魚介類はママの目利き。それもそのはず、ママは26から31歳まで銀座の一流クラブでホステスをしていたのだ。 「お客さんにはずいぶんおいしいものを教えていただいたわ~」とさらりと言うが、往時の舌の記憶がメニューに反映されている。 関東ではここでしか飲めないという地元「若清水酒造」の日本酒を頼むと、「ほぼ2合」というどデカいグラスに並々と注いでくれる。「シメ」をお願いすれば、てんこ盛りの「ウニ丼」。のけぞる俺。
「2軒目に行けなくなるから、結局安上がりでしょ(笑)」【美酒嘉肴ゆきみさけ】
住:東京都中野区5-52-1 2F
電:03-6454-0258
営:18~24時(状況により早じまいあり)
休:日
料:おまかせコース(4000円~)あり
カウンター9席、テーブル2卓。宴会も可能。予算に応じて料理を出してくれるが、どれも盛りが良いと評判
協力/O氏(夜遊びガイド)撮影/渡辺秀之