俺の夜
先のGWは10連休と巷は大騒ぎであったが、いかんせんカネもヒマもない。近所をまんじりともせずにぐるぐると歩いていると、それを見透かしたように電話が鳴った。
「都内に大人のアミューズメントができましたよ。秘宝館、一緒に行ってみませんか?」
弾んだ声を出すのは夜遊びガイドのO氏。秘宝館と言えば、地方の温泉地で人目を忍ぶようにひっそりと営業されているイメージがあるが、まさか都内とは……。
ピンサロ通りを抜けるとカオスが
やってきたのは大塚。大人の歓楽街として名を馳せるこの街は、俺が実話誌記者時代さんざん“修業”した場所だ。北口から放射線上に延びる通りは「ピンサロ激戦区」で知られ、恐ろしく低価格の店に入っては、味のあるポン引き、店内アナウンス、それに輪をかけて味がある「社交さん」の手練手管を体験しては、禄を食んでいた。
「2回転1300円、3回転1800円」。10年前よりも価格破壊を起こしている看板を眺めながら通りを歩くと、その外れにド派手な花輪に囲まれた店があった。
スナックのようなカウンターの奥に女性がひとり微笑んでいる。向かいの壁には「秘宝館」と書かれたネオンが鎮座、その下には7人の小人がおり、天井からは鬱蒼とした緑が垂れ下がっている。
なんという異空間。聞けば店主の片品村蕃登さんは、全国にあまたあった秘宝館の内装を制作、運営していた会社で働いていた経験があり、閉館、解体に追い込まれた全国の秘宝館の“秘宝”を収集。集めたコレクションを展示するためにこのバーを開いたという。昭和ロマンを再現した大人の空間
「昭和のバブル時代には儲かるということで、全国に数十軒あった秘宝館ですが、バブル崩壊とともに続々閉館。平成で新設されたものはなく、令和を迎える今“絶滅危惧”業種となっています」
スナック然とした店内には「お宝」がぎっしり。ネオンは’14年に廃館した、嬉野武雄観光秘宝館で実際に展示されていたもの。壁画も当時の展示を3か月かけて再現したという。モニターには秘宝館で実際に流されていた「マル秘映像」が。珍妙な映像を観ながら、俺はキンミヤ焼酎のレモンハイ、O氏は名物の「みりんの牛乳割り」を舐めながら、秘宝館の歴史や逸話を聞くと、昭和がいかに鷹揚でロマンのあった時代かしみじみと感じることができる。
すべて本物! 展示されている“秘宝”の数々
「実は、私の家にはまだまだ展示品が眠っているんです。今後ここに持ってくるかもしれません」
ここは現在進行形の秘宝館だ。
【ニュー秘宝館】
住:東京都豊島区北大塚3-33-2 ヤマトビル1F
電:03-6903-4194
営:15~24時
休:日
料:600円~(飲料・軽食代のみ。18時以降はチャージ500円)
●最新情報はtwitter(@katashinamrhoto)をチェック
協力/O氏(夜遊びガイド)撮影/渡辺秀之
春は別れと出会いの季節。仕事仲間の送別会の幹事を仰せつかったものの、どうすべきか。懐寂しい中年同士、財布の紐は締めておきたいが、貧乏くさい宴会では遠い異国の地に「島流し」になる同輩に恨まれる。思い悩んでいると、夜遊びガイドのO氏から電話が……。
「それなら、ゆっくりとご飯を食べながら、美人ちゃんのショーが観られる店がありますよ!」
さっそく下見に、氏と向かったのは六本木。最近、ショーパブ激戦地として知られており、少々下り坂にあると言われる、インバウンド需要のなかで、まったく衰えを知らない街だ。
炊きたてご飯を肴に美女の踊りを愛でる
六本木通り沿い。すぐ隣にド派手な商いで知られる、某有名寿司店の看板を眺めつつ、エレベーターに乗って降りると、負けず劣らずド派手な店が。遊郭をイメージしたという内観は、赤を中心に紫、金色とド派手。天井から吊り下げられた色とりどりの傘や、金色銀色に光るソファ。オリジナリティ溢れる壁のデザインは、外国人ならずとも楽しめるだろう。
「いらっしゃいませ~」。席につくやいなや、胸元がぐっと開いた衣装を身にまとった舞凛ちゃんからシステム等の説明を受ける。
酒池肉林の竜宮城にいらっしゃいませ~
「おすすめは、炊きたてのご飯と小鉢3品、2時間の飲み放題がついて5000円のセットです!」思わずのけぞる俺。六本木のショーパブなら、この値段でドリンク別が相場。どんなからくりが?
さっそく現れたのは、なんとオカマ、いや正真正銘の美女が「お釜」を持ってくると、火をつけるではないか。そして、47都道府県から取り寄せた名産から好みのものを3つ選べる小鉢がやってきた。「北海道の塩辛、岡山の焼きままかり、千葉県産のひじき明太です」
“親父殺し”といっていい小鉢のラインナップは日本酒が恋しくなる。そうこうしていると、お釜からは湯気が沸き昇り、たちまち甘い匂いがショーパブに充満する。
豪華絢爛、そして妖艶な花魁ショー
「メシ食っちゃっていいのだろうか……」という罪悪感は蓋を開けるや吹き飛んだ。ピカピカのご飯を手際よくよそう舞凛ちゃん。ド派手なネイルと茶碗のコントラストたるや。おっさん2人でおかずの小鉢を交換しては、ホクホクしていると場内は暗転。売りである、花魁ショーが始まった。
きらびやかな衣装を身にまとった女のコたちが和風にアレンジしたロックに乗せて、おしとやかに踊る。さっきまでメシの世話をしてくれた女のコたちが舞っている。花魁かと思いきや、一転、着物を脱ぎ捨てると、セクシーなダンスが始まった。飲食を忘れ、ショーに没入する俺たち。ここは龍宮城か?
さっそくチップを買い求め、席に挨拶にやってくる乙姫たちの胸元に滑り込ませる。
【神楽Tokyo】
住:港区六本木3−10−10 藤井ビル7F
電:03−6812−9332
営:20時~翌4時
休:日・祝
料:90分4000円~(ワンドリンク制)
ショーは21時から一日3回。食事付きなど各種プランあり(要予約、当日の予約は19時まで)
協力/O氏(夜遊びガイド)撮影/渡辺秀之
大阪・ミナミに行くといつも感じることがある。東京が失ったどこか猥雑で淫靡な空気。煽情的な看板、ド派手な店構え、客引きのお兄さん、お姉さん、そして酔客がそれらを冷やかして歩く。この界隈で“発明”された水商売がやがて東京に流れてくることも多く、俺にとっては夜遊びの教科書的な街だ。
とりわけ人で溢れる宗右衛門町界隈を流していたら、目に飛び込んできた遊郭風の佇まい。角地に白提灯に暖簾、そして朱色の引き戸、酔客や観光客が足を止めている。はて、ここは飛田か松島か!?
格子の中で花魁姿の女のコが手招き……
ガラガラと引き戸を開けると、目に飛び込んできたのは「張見世」と呼ばれる格子。その中には一段高くなった畳敷きの部屋があり、そこをぐるりと囲んだカウンターに座ると、盛装した遊女たちが、手招いてくる。ここは遊郭を模したガールズバーなのだ。
外の喧騒から一気にタイムスリップしたような異空間。うろたえていると法被を着た女性番頭がやってきて、システムを説明してくれる。飲み放題の「お殿様の巻(5000円/60分)」コースを所望すると、枡に入った日本酒と乾き物が用意された。枡の角に盛られた塩をちびちび舐めながら格子戸の中の遊女たちを眺めるが、正直目移りしてしまう。豪華絢爛の遊女がしっぽりとお出迎え
格子戸から手を出しての呼び込みにグッとくる。不思議な高揚感と背徳感。最初に声をかけてくれたちはやちゃん(20歳)に、コースに含まれていた「小判一両(女のコのドリンク券)」を手渡し乾杯。お殿様気分を味わうため、店に常備されている「バカ殿ヅラ」をかぶってみる。
小判を払ったことをいいことに、ちょんまげを触ってもらう“狼藉”を働く俺。目線の先に、ちはや太夫の白い膝小僧が目に入る。これは日本酒が進む……。遊郭と言えば、我々おっさん世代には五社英雄の映画『吉原炎上』の暗く、淫靡なイメージがあるが、若いコたちには蜷川実花の『さくらん』のロックでビビッドな世界がクールでカワイイのだそう。
「女性のお客さまも多いですし、これを見て、ココで働いてみたいと言ってくれる女のコもいるんですよ」とちはや太夫。格子戸の中の遊女たちもこのきらびやかな衣装と世界観がお気に入りだと言う。
さらに、インバウンドでミナミを訪れた外国人も多く訪れるよう。
「英語・中国語などに堪能な女のコもいますし、ポケトーク(翻訳機)も用意してありんす(笑)」
事実、お店のインスタグラムには店内で撮ったきらびやかな写真がズラリ。許可を取れば店内での「ばえる」撮影は可能なのだ。東京にも遊郭をテーマにした店はあるが、ここまでこだわったものはない。さすがミナミ。俺の想像のナナメ上をついてくる。
【OIRAN de ENJOU~炎城】住:大阪府大阪市中央区東心斎橋2-6 三ツ寺ギャラクシービル5号館1F
電:06-6212-5516
営:20時~翌4時
休:日曜
料:45分3000円(日本酒・ソフトドリンク飲み放題)、60分5000円(すべて飲み放題)
※女性はコース料金からすべて500円引き
撮影/加藤 慶