「原発国民投票議連」が盛り上がらないワケ
原発は必要か? その是非を問う国民投票の実現を目指す議員連盟(正式名称:原発に関する国民投票を実現する議員連盟)が先月できたのをご存じだろうか?
福島原発事故の対応を巡って政府に対する国民の不信感が強まっている昨今、もはや政治家に任せちゃおけない! なんて思っている人も多いはず。そんな世論の高まりを受けて、民主党の桜井充財務副大臣ら有志を集めて発足したのだ。が、世論の関心とは裏腹に、政治家センセイ方の間ではイマイチ盛り上がっていないようで……。
「すでに一度、会合を開いているのですが、そのときは議員25人、秘書25人集まったんです。それを考えると、もう少し増えるかと思ったのですが……正直、予想していたよりも(参加者が)少ない……」
“暫定座長”の桜井氏が嘆息するように、国会内で開かれた発足会に参加したのは民主党衆参両院の国会議員がわずか20人。前回よりも30人も少ない……。一見“時流”に反する、地下式原発の推進を検討する議連「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」(5月31日発足)が超党派で60人の議員を集めていることと比べても、やはり少ない。
原発国民投票議連の呼びかけ人は桜井氏のほか、友近聡朗参院議員、舟山康江参院議員、石田三示衆院議員、石山敬貴衆院議員、福田衣里子衆院議員、山岡達丸衆院議員の計8人の民主党議員だが、この顔触れも、地下原発議連に4人の首相経験者(羽田孜、森喜朗、安倍晋三、鳩山由紀夫/いずれも敬称略)が名前を連ねていることと比較すると……どうにも頼りない。自然と、メディアで取り上げられる機会も少ない。時事通信とNHKがちょろっと報じただけなのだ。
そんなため息さえ聞こえてきそうな議連の発足の契機となったのは、6月に実施されたイタリアの国民投票だ。
日本と異なり、イタリアは憲法改正および憲法と同等の効力を有する法律の制定、法律廃止、これらすべてに関して国民投票を実施できることが憲法に定められている(憲法第138条および75条)。過去18回、65件について国民投票が実施され、チェルノブイリ原発事故直後の’87年には「原発建設地の政府の決定権限の廃止」「原発立地自治体への補助金交付の廃止」が賛成多数で決定されている。つまり、国民投票により実質的な“脱原発”を決定したのだ。
これに対して、今年6月13日に実施された国民投票は、ベルルスコーニ首相が新たに進める原発政策の是非を問うものだった。結果は反対多数で、原発推進は頓挫。「当然だ」と思った人も多いだろうが、実は当初は「原発を推進するための国民投票だった」という。
発足会に、講師として呼ばれた毎日新聞ローマ特派員の藤原章生氏はこのように話す。
「よく日本の方は勘違いされるのですが、イタリアの原発を巡る国民投票は福島原発事故があったから実施されたわけではありません。昨夏に申請があり、野党議員や市民団体の活動もあって70万人以上の署名(イタリアでは50万人以上の署名によって国民投票が実施される)が集まり、今年1月に最高裁で投票実施が決定されたのです。その直後にメディアが実施した世論調査では、6、7割の人は原発再開に『賛成』だった。そもそも原発の推進は’08年にベルルスコーニ政権が公約として掲げた政策でした。イタリアは実質的にヨーロッパのなかでもっとも電気代が高い国なんです。加えて、とんでもない額の借金を抱えた国でもあります。実にGDPの120%もの政府債務を抱えているのです。そんなイタリアを立て直すためにも、地球温暖化対策に取り組むためにも『原発が必要』というベルルスコーニの主張に大半の方は納得していたのです」
陽気なイタリア人の考え方をガラリと変えたのは、“フクシマ”だった。
「私が福島県出身と知るとあちこちからイタリア人が集まってくるんです。入国の際にチェックインカウンターでも『フクシマ!』って驚かれ、『みんな、この人フクシマだよ!』という風に、ほかのイタリア人に言うもんだから、『家族は大丈夫なの?』などと質問攻めにあいました(笑)。感情移入しやすいうえに、議論好きという国民性があるので、フクシマを自分のことのように考えてくれる人が多いんです」(藤原氏)
結果、国民が納得する形で脱原発を決定したイタリアをうらやましく思う人は多いはず。だが、日本ですぐに同様の国民投票を実施するにはハードルが高い。
※【後編】につづく 取材・文/池垣完
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