失言のオンパレード…森喜朗元首相という人【鴻上尚史】

Tokyo 2020 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

Tokyo 2020 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会HPより

 2520億円という巨費を投じての建設の責任と追加負担のなすりつけあいが続いていた、2020年の東京五輪・パラリンピックのメインスタジアム「新国立競技場」だが、安倍晋三首相が「白紙に戻す」と計画を見直す方針を表明した。

 大会の組織委員長である森喜朗元首相は、講演先で「東京五輪のレガシーとして残そうというのが我々、スポーツ愛好家の考え方」と語ったとかで、あいかわらず「らしい発言」を展開(「負のレガシーでしょ」とつっこんだ人は、多いはずだ)。

 劇作家・鴻上尚史氏は、新刊『この世界はあなたが思うよりはるかに広い』の中で、森元首相とのエピソードを紹介している。2014年ソチオリンピック・フィギュアスケートの浅田真央選手に対する発言に関して書かれたエピソードだが、森元首相「らしさ」も納得できるコラムなので、ここに紹介する。

◆森・元首相という人

 数年前、ラジオ局の偉い人に赤坂の小料理屋に招待されたことがありました。ビルの6階か7階だったかと思うのですが、1階でエレベーターに乗ろうとしたら男性が一人、先に階数表示のボタンの前に立っていました。

 その人は、僕が乗り込もうとしたことに気付くと、ごく自然に「何階ですか?」と聞きました。そして、少し微笑みながら、なんの抵抗もなく、当たり前のように、階数ボタンを押そうとしました。僕は、少し戸惑いながら、階数を答えました。「同じですね」とその人は柔和に付け加えました。

 まるで、エレベーターボーイのように、階数ボタンの前に立ち、なんの疑問もなく、人に聞き、その通りにする――それが、昨今話題の森喜朗・元首相でした。

 森・元首相は、僕が招待された同じ小料理屋で、支持者の人達との会食のようでした。気さくにしゃべる話し声が漏れ聞こえる中、「ああ、この人は、これが魅力の中心なんだな」と僕は思いました。

 秘書や部下を引き連れて、その人達にすべてやらせて、自分を結果、高く見せる人はたくさんいます。売り上げという数字が根拠になっている企業人ではなく、得票数という評判が根拠の政治家さんは、その根拠が薄弱であるからこそ、周りを使って、自分を高く見せるのだと思います。

 俳優さんも、そういう傾向があります。スポーツ選手は数字ですし、音楽アーティストはアルバムの売り上げ枚数という、明確な根拠ですが、俳優は「人気」という、じつに曖昧なものです。だからこそ、お付きの人数とか名前の表記の順番とか出演時間とかに、こだわるのです。

 で、僕は森・元首相の、あまりにも気さくであまりにも自然体の振る舞いに、衝撃を受けたのです。

 僕を見たときの反応から考えて、森さんは、僕のことを知らなかったと思います。ただ、後から人が入ってきたから、階数を聞いて、ボタンを押した。それだけのことです。

 簡単なように聞こえるかもしれませんが、40年以上政治家という職業にいながら、こんなことがサラッと当然のようにできるのはすごいことだと思います。首相までやった人です。

 どこかの大企業の社長が、一人赤坂のビルのエレベーターに乗っていて、あきらかに自分より年下の他人が乗り込んできたとき、穏やかな声で率先してボタンを押すでしょうか。

 気さくな、人の良いおじさんなんだな。僕はそう思いました。

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