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「街の匂いもメシの味も何もかも合わない」――46歳のバツイチおじさんはスリランカに来たことを激しく後悔した〈第25話〉

4日目の朝、何とか熱が下がったのでコロンボを離れることにした。知り合った旅人たちから「スリランカでインドビザを取るならキャンディという小さな街がオススメだよ。大使館、混んでないし」というアドバイスをもらったからだ。病み上がりの身体だが、なんとか22キロのバックパックを背負い、格安バスで4時間かけキャンディに向かった。 キャンディは、京都や鎌倉に似た伝統的な古都。仏教の聖地であり、街全体がユネスコ世界遺産に登録されている綺麗な街だ。驚いたのは、横断歩道以外の場所で人々が道路を横断することもない。とても規則と戒律の厳しい街のようだ。平気で道路を横断する、コロンボの混沌とした感じとはだいぶ違う。俺はこの街が一目で気に入った。

キャンディの街並み

古都感がすごいキャンディの街並み

風光明媚なキャンディ

一泊900円のドミトリーに到着すると、SONYカメラα6000を持って街並みや現地の人々の写真を撮りに行った。 「あ……」 ファインダー越しに、現地で暮しているスリランカ人たちを冷静に見ると、結構シャイで、働き者で、決して悪い人たちではないこと気づいた。 今まで出会ってきたアジア人たちと何も変わらない。 自分が心を閉ざしていたため、スリランカ人の本当の姿が見えなくなっていたのかもしれない。 そんな小さな気づきにテンションが上がり、現地の人たちの写真を撮りまくった。 ふと気づくと、キャンディーにある女子大の前で撮影していた。 スリランカの女子大生はカメラを向けると恥ずかしそうに笑う。 田舎の純朴な少女を撮影しているようだ。 その笑顔が見たくてシャッターを切った。

笑顔が可愛いキャンディのシャイな女子大生

人々が去りひと段落すると、全身白づくめの宗教衣装を着た50代くらいの黒人と目があった。 俺はぺこりと挨拶をした。 しかし、向こうは俺を無視し、目線を外さず俺をじっと見ている。 しばらくその辺りで撮影を続けていると、彼はその様子をじっと見つめていた。 俺はなんだか監視されているような不気味な雰囲気を感じた。 別の場所に移動するため歩いていると、10メートル後ろから彼がつけてくるのに気づいた。 気味が悪いので、気づかれないよう小さな路地に入り、早足でくねくね歩き、彼を巻くことにした。 5分くらい経って、なんとか巻いたかなと思い、ふと前を見ると、今度は10メートル前方に彼の姿があった。 「えっ………………!!!」 相変わらず俺をじっと見つめている。 さすがに怖くなった。 小走りで彼に見つからないように、人の多いスーパーマーケットに飛び込んだ。 「これで大丈夫か……」 俺は息を整えながら辺りを見渡した。 すると、果物棚の向こうから、またあの黒人が俺を見つめている。 「……誰なんだよあいつ!」 付きまとい方が常軌を逸している。 全身白づくめの宗教衣装というのも怖いが、何を考えているかわからないことがさらに怖い。 俺は見つからないようにスーパーを抜け出し、キャンディの街を走り、逃げ廻った。 そして誰もいないことを確認し、小さなローカルなレストランに入った。そこで、50代くらいの店員に話しかけ、談笑をした。もし何かあれば、助けてもらうためだ。しかし、10分経っても、あの黒人の姿はどこにもなかった。 「よかった。なんとかあきらめてくれたみたいだ」 少しホッとした。 それにしても、なぜつけてきたんだろう? つーか、あいつ誰だよ? 疑問が頭から離れなかった。 店員「紅茶でも飲みますか?」 俺「あ、セイロンティー」 俺はスリランカが紅茶の産地だということを思い出した。 一息つくためミルクティーを頼むと、店員さんが白いカップに入ったミルクティーを運んできてくれた。 スリランカに来て4日目にして、やっと名産品を口にすることができる。 気分を切り替え、心して飲むことにした。 「めちゃくちゃうまい!」 普段、ティーパックの紅茶しか飲まない俺は感動すら覚えた。しかし、その時だった。
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「あ…………あいつだ……」
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