「街の匂いもメシの味も何もかも合わない」――46歳のバツイチおじさんはスリランカに来たことを激しく後悔した〈第25話〉
「あ…………あいつだ……」
ミルクティーの感動なんて、一瞬にして消えてなくなるほどの衝撃だった。
黒人は外から俺を見つけると、静かに店内に入ってきた。
そして、俺から3つ向こうの席に、俺を見つめながら腰掛けた。
座ってからもじっと俺を見ている。
俺は店員さんに助けを求めた。
俺「すみません。あの黒人がずっとつけてくるんです」
店員「つけてくる?」
俺「あの白い服着た黒人です」
店員「どれ?」
店員さんが彼を見つめると、俺を見つめながら立ち上がり、そのまま外に出て行った。
店員さんは外に出て彼を探したが、その黒人は姿を消していた。
俺「なんでつけてくるんですか?」
店員「わからないな」
俺「よくある話ですか?」
店員「聞いたことない」
俺「……そうですか」
1時間ほどその店で時間を潰し、店員さんと一緒に外に出ると、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
俺は恐怖に怯えながらも、その足でドミトリーに駆け込んだ。
ドミトリーの入り口から何度も何度も黒人の姿を探したが、彼の姿はなかった。
そして、その後彼は二度と俺の前には現れなかった。
俺はベッドにごろりと横たわり、「なぜつけられたか?」を考えた。
おそらくだが、女性の写真を撮っていたのがいけないんだろう。
外国人の男性が日本の若い女の子の写真を撮ってたら嫌だもんな。
フィリピンの語学学校の時も変態扱いされたもんな。
以後、気をつけよう。
そういえば、スリランカで年頃の若い男女が仲むつましく話している姿を見たことがない。
街でも、年齢関係なく女性に道を聞くと、必ず近くの男性が寄ってきて代わりに答えてくれる。
おそらく、若い男女が公共の場で話したりするのをあまりよしとしないんだろう。
もしかすると、宗教的戒律が起因しているのかもしれない。
俺はこの国では間違いなく異人だ。
彼は珍しい異人にこの街のルールを教えようとしたのか?
俺はタブーを犯したのか?
彼は街の女性を守ろうとしたのか?
これはあくまでも俺の想像だが、あの黒人は何らかの宗教者でこの街の治安を守るため、人々を監視しているんだろう。そして、俺に十分な警告を伝えてから、去っていったのだろう。
これからはタブーに触れぬよう慎重に行動しよう。
どこに虎のしっぽがあるかわからない。
この街、いや、この国の女性と話すのはやめたほうがいいかもしれない。
もはや、この戒律の厳しい街で、スリランカの女性と恋に落ちるなんて考えられない。
「もしかして、世界一周花嫁探しの旅でスリランカを選んだのは失敗だったか?」
スリランカに来て4日目にして「恋に落ちてはいけない」、というか「話してもいけない」という、世界一周花嫁探し史上最大のピンチが訪れたのだった。
しかし、このピンチはまだ序章であり、このあと旅の存続が危ぶまれるほどの史上最大のメガトンピンチが訪れるということを、このときの俺は知るよしもないのだった――。
次号予告「ピンチはチャンス!? 謎の美女とまさかのスリランカデートを決行!?」を乞うご期待!
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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