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美人新聞配達員の「好き」を知るためだけに生きていた――爪切男のタクシー×ハンター【第十九話】

「実家に帰る準備とかあるので、たぶん今日が配達に来るの最後になるんですよ」  ナツキちゃんは今までとは明らかに違った、何かを私に期待した目で力強く言った。色々と言いたいことはあった。帰る前に一度お茶に行けないかな。彼氏はいるのだろうか。連絡先を交換したいけどいいのかな。私のことをどう思っているのかな。とてもじゃないが聞くことができなかった。彼女が私からどういう言葉をかけてもらいたいのか皆目見当がつかなかった。 「えっ……急だね……本当にお疲れ様でした」 「……ありがとうございます」  いくじなしで面倒臭がりの私はそう言うことしかできなかった。彼女を冷たく突き放すことで早くこの場を終わらせたかったのだ。最悪の出会い方をしたのだから、最後ぐらいちゃんとするべきなのに、終わり方まで最悪なんて、本当に自分が嫌になる。思い上がりではなく、もし彼女に何かを期待させたのだとしたら、それは私の思わせぶりな態度が原因なのだ。自分を責め続ける私に対して、ナツキちゃんが口を開く。 「じゃあ……彼女さんを大事にしてあげてくださいね」 「え……なんで知ってるの? 彼女のこと言ったっけ?」 「ここに新聞の契約を取りに来た人から聞きました。可愛い彼女と一緒に住んでるはずだって」 「……そっか」 「大事にしてあげてくださいね」 「……分かった。約束するよ」  それがナツキちゃんとの最後の会話だった。  また、できない約束をしてしまった。子供の頃、自分が大人になったら充分な時間とお金が手に入り、何でも自分の思うようにできるものだと夢見ていた。だが現実は厳しかった。大人になるとできない約束ばかりが増えていく。約束は重荷になり、自由に空を飛べなくなる。その苦しさから逃げ出す為に、できないことをできることと勘違いし、できなかったことを都合よく忘れながら私は今を生きている。  というような格好良い言い回しで全てをうやむやにしている。
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「嘘くせえ話だな~!」
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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