風俗嬢は勃たずに落ち込む私に言った「すぐに謝る男の人、あんまり好きじゃない」――爪切男のタクシー×ハンター【第十八話】
―[爪切男の『死にたい夜にかぎって』]―
終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。
【第十八話】「すぐに謝る男の人、あんまり好きじゃない」
年が明けてしまった。
子供の頃は家が貧乏だったこともあって、非常に質素なお正月を過ごしていた。独楽も羽子板も凧揚げもしない。初詣は近所の古びた小さな神社で手短かに済ますだけ。豪華なおせち料理を食べたことなどない。唯一の楽しみは、町内の餅つき大会で配られる無料のお餅をごっそり持ち帰って、お椀からこぼれ落ちるぐらいにお餅を何個も入れたメガお雑煮を祖母に作ってもらうことだった。気難しい性格をしている親父が親戚一同から総スカンを食らっていたので、わざわざお正月に訪ねてくるような親族はいなかった。家族だけで過ごす静かなお正月。その静寂の中で食べるメガお雑煮は本当に美味しかった。
大人になってからもお正月の過ごし方は変わらない。初詣だけはしっかり行くが、それ以外は特にお正月らしいことはしない。お雑煮だけは無性に食べたくなるので、私が行きつけにしているオカマバーで振る舞われるお雑煮を毎年食べに行く。上述のメガお雑煮を再現したくて「オカマよ。明けましておめでとう。オカマよ。お餅をたくさん入れてくれ」と頼むと、「餅は一人一個まで! 生意気言ってんじゃないよ!」とオカマに怒られて私の新年は始まる。私は、祖母とオカマが作ったお雑煮しか食べたことがないが、それはそれで充分である。そのお雑煮は「人生」という隠し味がきいた最高のお雑煮なのだから。
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『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!
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