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男の格好のままだと気づけない「女同士の会話のルール」がある【カリスマ男の娘・大島薫】

女装をしていると「女性同士の会話」を求められる

大島薫

出演映画『歌ってみた 恋してみた』の現場より

 女性と一緒にいると、ボクのシルエットに安心するのか、女性同士の会話を求められる。いくらボクが女性も好きだと公言していると知っていようとも、そう扱われてしまう。見た目が与える印象は強い。  しかし、ボクは女性のルールを知らない。相手の言ったことに同意する癖付けもできていなければ、褒められたら褒め返すということもしてこなかった。しかし、何回かそういった”女子会”のようなものに参加させてもらって、「ああ、こういうときは褒めなきゃいけなかったんだ」と気付くことができた。それがつい最近。  そう考えると、もしかしたら、男性の見た目のままでは一生そういう気付きを得られなかっただろうと思う。男性の見た目のときに付き合ってた彼女と、こんな内容で喧嘩したことがある。 「どうしてあなたは否定ばっかりするの!?」  はて? なぜ彼女は怒っているのかと考える。そもそもの発端は彼女が相談話を持ちかけてきたので、受け答えをしただけのことに過ぎない。それがいつの間にやら彼女は否定された気持ちになり、いまはボクに怒りと悲しみをぶつけている。  そもそも彼女を否定するつもりなど、さらさらない。受け入れているからこそ付き合っているのだし、時間を割いて相談にも乗ってるんじゃないか。しかし、彼女は否定されたと感じている。これはどうしてなのだろう。  きっと、ボクは共感してあげられてなかったのだ、といまは思う。どうしても男性は結論をすぐに求めがちだ。それはもう、「生きるか死ぬか」くらい白黒はっきりつくものをよしとする。しかし、女性の社会でそういう会話はあまり見ない。結論などはともかく、まずは共感を重視する。  たしかに、いまのボクからすれば、昔のボクは否定ばかりに見えるかもしれない。彼女のいうことに「でもさ、それってこうじゃない?」とか「そんなにいうなら、ああすればよかったじゃん」と結論を提示して、彼女のいってることへの同意がゼロだった。けっして、そんなつもりはなかったのだが、女性の社会にいる人にとってはそう見えたことだろう。  だから、いまはまず初めに同意する。「そうだね。そういうのってイヤだよね」とか、「わかるよ。辛いよね」という言葉を最初に提示してから、自分の考えを伝えるようになった。だって、否定されるのは悲しいもんね。  ボクらは生まれてから、たくさんのそんな「ルール」や「マナー」に縛られて成長していく。縛られていることが心地いいと感じることも多いが、たまに、辛くなる。自分がおかしいと思ったことを、おかしいといえない世の中。キライなモノもスキといわざるを得ない世の中。ボクは「男性は男性の格好をするもの」という《男性のルール》を飛び出して、いまこの生活をしている。そして、いまはたまに《女性のルール》に縛られる。そんなことを繰り返しながら、また《男性のルール》に戻ってみるのだ。  自分らしさとはなにか、知るために。 【大島薫】 作家。文筆家。ゲイビデオモデルを経て、一般アダルトビデオ作品にも出演。2016年に引退した後には執筆活動のほか、映画、テレビ、ネットメディアに多数出演する。著書に『大島薫先生が教えるセックスよりも気持ちイイこと』(マイウェイ出版)。大島薫オフィシャルブログ(http://www.diamondblog.jp/official/kaoru_oshima/)。ツイッターアカウントは@Oshima_Kaoru
1989年6月7日生まれ。男性でありながらAV女優として、大手AVメーカーKMPにて初の専属女優契約を結ぶ2015年にAV女優を引退し、現在は作家活動を行っている。ツイッター@OshimaKaoru
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