「どうなったか見たい?」彼女は私のボーナスで女性器を手術した――爪切男のタクシー×ハンター【第三十話】
ある日の仕事帰りのタクシーにて。元NHKアナウンサーの松平定知さんによく似たダンディな運転手に、あえてこの話題をぶつけてみた。
「……というわけで、手術しちゃったんですよね」
「はぁ、なんと言っていいのか困りますね」
「運転手さんが困るの分かってて話しちゃいました。すいません」
「……ひどいですねぇ」
「すいません、でも誰かに話すことができてスッキリしました」
「それならよかったです」
「……」
「……」
「本当は僕が悪いの分かってるんです」
「……」
「彼女はずっと家で一人でいます。働くことも今はできないです。だからと言って僕に愛されてるという実感も今はないと思います」
「……はい」
「長く一緒に居過ぎました。お互いのこと分かり過ぎてます。愛する人の面倒をみているというよりも、戦争で傷ついた味方の兵隊を介抱している感じに近いです。戦友ですね」
「ははは」
「僕が彼女を女として愛さないから、自信を無くしちゃったんだと思います。病気のせいだけじゃないです。自分のマンコに問題があるから抱いてくれないんだってとこまで彼女を追い詰めたのかもしれない。分かってます。でも彼女とそういう気分にはなれないんです」
「そうなんですかねぇ……女性ってそんなに弱くないとも思いますけどね。単純に綺麗になりたいって思っただけかもしれませんよ」
「……そう言ってくれてありがとうございます」
「いえいえ……私は思ったことを言っただけですから」
「……」
「……」
「……」
「……」
「チンコとマンコって何なんですかね……」
「あっはっはっ! お客さん、そんなにしんみりと言わないでくださいよ」
「だって……アホらしいですよ。サイズが小さいこと気にしたり、見た目が汚いからって手術したりとか」
「確かにそうですね」
「なんでこんなくだらないことで悩むんでしょうね」
「だからいいんじゃないですかね? それが人間らしさってもんじゃないですか」
「……」
「よくテレビや雑誌で言ってますよね。発達した人工知能はいずれ人間を超えるって。そうなると人工知能に人間が支配されるってね」
「言ってますね」
「私は思うんです。確かに技術的にはいずれ人間を超えるんだろうなって。でも、こんなことで悩む人間のバカバカしい部分までは絶対に表現できないですよ」
「それはそうですね……」
「それにこんな悩みを解決する為の商売まで人間は考えたんですよ。人間って本当にバカで面白いですよね」
「ははは」
「なので人間は機械には負けないです。バカは強いんです」
「そうですね、負ける気がしませんね」
「もっとバカになりましょうよ。気楽にね。たとえ彼女さんを抱くことができなくても一緒にバカなことはできるはずですよ」
「……ありがとうございます」
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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