最終話、崇高なる高僧までも詐欺師…!?
デリーでは本当に嫌な経験ばっかりして、ストリートでも地下鉄でも詐欺師に囲まれている気分だった。ときには、電車を待っている
制服を着た普通の高校生までが「お金ちょうだい」と話しかけてきた。まさに、アメージングを超えたサプライズの数々をプレゼントされた。そんな悪夢のデリーを卒業し、私はバラナシへと向かった。
じつは今回のバラナシ行きは「インドでどれだけ詐欺師を回避しながら人々と仲良くなれるのか」という目的のほか、彼女にフラれてしまったので心を癒すための失恋旅行も兼ねていた。
ご存知の方も多いかもしれないが、バラナシは
ガンジス川の聖地。そこで身を清めることで穢れた心を癒し、また新しい生きる力を手に入れたかったのだ。
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訪れたのは8月。ちょうとシヴァ神のお祭りが行われていて、インド中から観光客が押し寄せていた。街には活気があり、お祭りムード一色だ。
シヴァ神のお祭り。まさに人ゴミ……
バラナシで過ごすなかで、徐々に私のモチベーションも戻りつつあった。そこで知り合ったインド人に、ある日、「普段は山奥で修行していて、滅多にお目にかかれない
高僧に占ってもらえるよ!」と誘われたのである。インドの高僧……それってガンジーに近い存在なんじゃないのか? 失恋中だった自分にとっては、非常に興味深い話であった。
「でも、そんなお偉いさんの僧侶じゃ、お布施も高いんじゃないの?」
デリーで痛い目に遭っていた私は、最初からそう疑ってかかるも「それは君の心次第だよ」と返され、疑心暗鬼になっていた自分を再び恥じた……もう思いっきり恥じたのだ。常にお金を要求してくるデリーとは違い、ここバラナシはやはりガンジス川の聖地。
お金よりも信仰心が大事だと心を改める。そして気付くと、まだ見ぬガンジー様に出会いたいモードへ私は突入していた。
インド人の後ろを追って歩いていく。そして、路地を少し上がった館へと連れていかれたのだった。
この路地の近くにある館に連れていかれ……
高僧が滞在している館へ入るなり、もの凄い煙で前が見えない状態だった。そのなかを手探りで突き進む。その頃のバラナシは気温40度近かったのだが、高僧がいるという部屋だけはヒンヤリとした空気が流れていた。
「これが崇高なる僧侶にのみゆるされた神聖な部屋か……。なんだ、あの人物は! 後光が眩しすぎる! あの人物がガンジーなのか!」
煙の先に目を凝らすと、1年のほとんどを山奥で過ごすという高僧(以下、ガンジー)があぐらをかいていた。今にも“
空中浮遊”しそうなオーラを放っている。
ガンジーは「君のことは何も見なくともすべて分かるよ」と言い、私のことを占い始めた。その結果……。
「君は5人家族だね?」
「(えっ、4人家族です!)」
「去年、大きな事故があったよね?」
「(い、いや、すこぶる健康体でした!)」
ことごとくガンジーの占いはハズれていく。このままでは高僧のプライドを傷つけてしまう! 自分からヒントを与えなければ!という日本人的な良心を私は発動させた。
「いま、彼女と別れて心が傷ついています」
それに対する答えとは……ガンジーから意外な言葉が返ってきた。
「それはね、君が
ヤリチンだからだよ」
もはや何も言えない。その後、30分ほどガンジーの占いはハズれ続け、終焉を迎えた。
「コレで終わりだけど、お布施はどうする? Aコース、Bコース、Cコースあるけど?」
しかも、
もっとも安いAコースでも5000ルピー(約8500円)という超高額設定。
「いや、“
金額は気持ち”と聞いていたのですが……」
「そう、確かに気持ちだけど、みんな僕のありがたい説法を聞いて幸せになってるし、最低でも5000ルピーは払っていくんだよ。ほら、見てごらん」
そう言って、一冊のノートを手渡してきた。世界各国の訪れた人々がいくらお布施したのか記載されている。そこには日本人らしき名前も沢山あり、このようなメッセージが書かれていた。
「
何、このオッさん胡散臭すぎる!ダマされないで」(観光客Aさん・20代学生)
「
高僧じゃなくて、詐欺師だから」(観光客Bさん・20代自営業)
ガンジーは当然、日本語が読めない。自分が散々ディスられているノートを堂々と見せてくるのだから笑うしかない。しかも、ノートには日本人が寄付した金額で「2000ルピー」と書かれていたのだが、そこには明らかに違う筆圧で“0”が書き足され「20000ルピー」となっている。正直、こんな生臭坊主にお金を払いたくはない。私がしぶっていると、ガンジーが強めの口調でこう言う。
「ポケットの中にいくら入ってるんだ?見せろよ!」
そんな昭和の不良みたいなことを……高僧って、人々を助けるありがたい存在なんじゃないのか。ダッシュで逃げようと思うが、室内には煙が立ちこめており、出口は見えない。このままでは帰れそうにない。仕方なくポケットの中の有り金(5000ルピー)を取り出した。
「なんだ、たった5000ルピーぽっちかぁ。これじゃあ足りないけど、今日はコレでいいよ」
「いやいや、これはバラナシでの生活費も含まれているので2000ルピーで済ませてください!(神様、アナタが本当に存在するなら助けてぇ~)」
「ダメだ。それなら現金で3000ルピーを置いていき、
残りの2000ルピーは日本に帰ったら振り込んでくれ。これが俺の名刺だ。
お金を振り込まないと災いが訪れるだろう」
ガンジー、普段は山奥にいるはずなのに、ATMのこと知ってるんだ……。私は3000ルピーを支払い、彼の名刺を握りしめて館を出た。
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これがガンジーの名刺だ!
空を見上げれば、すでにもう日が暮れかけていた。夕陽がガンジス川に反射して綺麗だ。こんなに美しい景色、ゆっくりと流れる時間……詐欺師さえいなければ最高だったのに(泣)。
ガンジス川に佇むおばちゃん
【勝手にインド危険情報】
ガンジーの館だけでなく、インド各地で「いくらでもいいよ、アナタの心次第(UP TO YOU)」というフレーズを聞いた。裏を返せば、このフレーズが飛び出してきたときは詐欺の可能性があるので注意しよう!