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1000万円を握りしめて国外逃亡。地球脱出まで目論む元トラックドライバー~日本を棄てた日本人~

カンボジアから消えたM川の行方は…

 そんなM川がいつの間にプノンペンから姿を消した。正直、もう会うことは無いと思っていたが、それが昨年、偶然入った市内のメシ屋で肩を叩かれ、相手の顔を見てびっくり。  髪の毛真っ白、一回り小さくなっていたが、弁当箱のような四角い顔、ベタベタの関西弁はM川以外の何者でもない。  プノンペンを離れた後、例の一千万円は使い切ってしまったそうだが、駆け込みセーフで年金受給者となり、日本にはほとんど帰国せず、隣国のベトナムをひたすらウロウロしていたという。 「ワシ旅行とか好かんから。なるべく動きたくないんですわ。それがシーツ……。毎日シーツを洗濯してくれるゲストハウスを探すうち、あっちゃこっちゃ動くことになってしまって」  洗濯の手間や費用を節約したい安宿と、潔癖症のM川。チェックインのたび双方の利害が激しく衝突するそうで、要求が受け入れられない場合は1日で宿を移り、移った先で毎日のシーツ交換を拒否され……を繰り返すうち、 「この20年で、ベトナムの安宿はほとんど泊まり尽くしましたわ! だけど、毎日シーツ交換してくれる宿なんて見つかりまへん。だからワシ、カンボジアに戻ってきたんです」
M川の部屋

20年かけても、毎日シーツを替えてくれる安宿は見つからなかったという

 読者の過半数が首を傾げたと思うが、私も同じである。だがもはや、今となっては何とも思わない。その数日後、M川と親しいベトナム帰りの旅行者から、こんな話を聞いたからだ。 「M川さん、宇宙人から警告されたんですって……。来年とんでもないことが起きるから地球を出ろって。大晦日にUFOが迎えに来ることになってますさかい、ワシ、他の星行きますわ!って、ハンバーガー片手に演説してましたよ」  今年、北朝鮮とアメリカはまさに戦争寸前。宇宙人の言い分が正しければカンボジアも巻き込まれるということなのか? あれ以来、M川とは音信不通。もう、地球を出てしまったのだろうか……。 【クーロン黒沢】 東京生まれ。90年代からアジア(香港・タイ・カンボジアなど)、洋ゲー、電話、サバイバル、エネマグラ等、ノンジャンルで執筆。強盗・空き巣被害それぞれ一回、火事・交通事故(轢き逃げされた)各一回、その他、様々なトラブルを経験した危機管理のプロ。現在は人生再インストールマガジン『シックスサマナ』発行人。同名のポッドキャストも放送中。 <取材・撮影・文/クーロン黒沢>
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