ホームレスの生活に密着…お金がなくても生きる術とは?
会社員としてまっとうに世の中を生きているみなさんは、ホームレスの声を聞いたことがあるだろうか? ここで言う声とは、昼間から酔っぱらって「うらああ!」と叫んでいる声や「ぐううう」といういびきなどではない。彼らの会話だ。おそらくほとんどの人がないだろう。路上で生活している人がいても、積極的に関わろうとはしないはずだ。
2017年の夏から彼らの生活に密着し続けてみたところ、家がないというだけで、考え方やモノの概念まで私たちとはまるっきり違うことがわかったのだ。
いまの日本の都市部では“近所付き合い”というものはほとんどなくなったように思う。近所付き合いがあればそこにはトラブルが生まれるというイメージが強くなりすぎた。実際に裁判にまで発展するケースもあり、そういった報道やニュースを腐るほど見ているのでみんな自然と近所付き合いを避けているのかもしれない。できるだけ深い仲にならないようにと顔を合わせないようにする。関わらないことで問題を未然に防いでいるのだろう。
しかしホームレスには、そもそも家がない。渋谷区の代々木公園には立派なホームレスたちの家が建っていたりもするが、基本的には簡易的なダンボールハウスに住んでいる。そのため近くで寝ている人とは必然的に顔を合わせることになる。
今回は、そんなホームレスの近所付き合いに密着してみよう。問題だらけの私たちの近所付き合いとは何が違うのだろうか? 東京都庁前にあるふれあい通りには30人近いホームレスたちが路上にダンボールハウスを構え生活をしている。この場所で彼らの近所付き合いを観察してみた。
7月上旬、ふれあい通りの入り口にダンボールを1枚敷き、その上で伸びてしまっている男性がいた。どうやらダンボールハウスのなかは暑すぎて寝ることができないため、風通しのよい場所に避難してきたようだ。ダンボールハウスはアスファルトの上に直接置かれている。日中熱されたアスファルトは夜になっても熱を吸収したままで、家の中は蒸し風呂のようになってしまうのだ。
そこへ仕事を終えたホームレスの青木さん(仮名)がやってきた。
「かっちゃん! またこんなところで寝ちまって! ほら起きろ~」
かっちゃんとは、青木さんのホームレス仲間らしい。暑さにうなされたうえに、ワンカップ酒までひっかけておりグロッキー状態。もう動けそうにない。
「今日は暑いしな。ここは風通しがいいから俺もかっちゃんの隣で寝かしてもらうぞ~」
青木さんはそう言うと、自分のダンボールハウスからダンボールの切れ端を引っ張り出し、かっちゃんの隣でワンカップを飲み始めた。
そんな調子で、この日はダンボールからもぞもぞと出てきたホームレスが6人。みんなで涼みながら夜を明かしていた。彼らは涼しい場所を独り占めせず、共有しているのだ。
ふれあい通りには行政による清掃が定期的に入る。ダンボールハウスが置かれているアスファルトを高圧洗浄機できれいに磨き上げるのだ。その際は、ダンボールハウスの“物件”に「一時撤去」の張り紙が貼られ、ホームレスたちの大移動が行われる。
排除ではなく、掃除のために一時的に移動するだけなので、むしろ喜んで家を撤去するのだが、なかには城のような家を持つホームレスもいるのでこれがまた大変。それぞれが自分の荷物の整理に追われ、現場は騒然だった。しかし、そんな最中でも彼らは近所付き合いを忘れない。
「おめえよ、明日の朝早いんだろ? 俺は明日仕事ないからよ、ある程度荷物をまとめておいてくれたらお前が仕事に行っている間に移動しておいてやるよ」
翌日仕事があるホームレスは荷物の整理を早めに切り上げ、眠りについた。次の日、彼のダンボールハウスはまとめられた荷物と一緒にきっちりと移動されていた。もちろん、無償である。
ホームレス式の“近所付き合い”に密着
夏は涼しい場所を共有「お前の隣で寝ていいか?」
行政による一斉清掃の夜「代わりに移動しといてやるよ」
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