カーライフ

日産ノート販売1位は天変地異!平凡な実用車が無敵のプリウスに勝ったのはゴーン被告のおかげ?

 昨年(2018年)の自動車国内販売台数のうち、軽を除く普通車(登録車)の販売ランキングで、日産ノートが日産車として史上初めて、暦年ナンバー1を記録した。

こちらはノートeパワーNISMO S

 60年代には、国内販売シェア3割以上をマークして、トヨタと僅差の勝負を展開してきた日産だが、サニーやブルーバードが売れまくっていた時代も、暦年ナンバー1の座は常にトヨタにさらわれていた。  それが今ごろになって、無敵を誇ったプリウスに打ち勝ち、ポコッと1位の座を獲得するなんて天変地異。このニュースを、東京拘置所にいるゴーン被告はどんな思いで聞いたのか。  ノートの1位がどれくらい天変地異か、日産の国内販売状況を見ればよくわかる。

「日産車ってぜんぜん売れてないんでしょ?」の誤解

 昨年の日産車の国内販売台数は、合計で約60万台。シェアは約12%だ。しかし61万台のうち、約19万台は実質的に三菱自動車が開発した軽自動車が占めている。純粋な日産車のシェアは8%にも満たないことになる。  よく一般の人に、「日産車ってぜんぜん売れてないんでしょ」と聞かれる。確かにこのところ、国内へのブランニューモデルの投入がほとんどなく、国内販売はあまり振るわない。しかしグローバルでの販売は好調。年間約570万台も売れている。
ノートeパワーNISMO S

ノートeパワーNISMO Sの価格は267万1920円。普通のノートは142万1280円~。ノートに占めるNISMOシリーズ(NISMOとNISMO S)の割合は7%もあります

 現在の日産にとって、日本市場は、総生産のわずか7%を占めるに過ぎなくなっている。中国ではその約4倍、年間150万台以上。アメリカでも2倍強。つまり日産は、中国とアメリカで全体の約半分を売っているのだ。  こうなると、新車開発は当然中国やアメリカ向けが中心になる。「グローバルモデル」というやつだ。日本で数が売れるのは、軽やミニバンなど、日本でしか売れない特殊な商品が主なので、そんなに多くの車種を作れない。日産が国内で不振で海外で好調なのは、ゴーン流の合理的な経営の結果だ。  日産が現在、国内で売っている17車種(軽を除く)のうち、国内向けに力を入れて開発したのは、ミニバンのセレナだけと言っていい。同じくミニバンのエルグランドも国内向けだが、ベースはアメリカ向けの「クエスト」というクルマで、それの幅を狭めて作られている。  で、ナンバー1になったノートだ。ノートは2012年に発表されたグローバルモデルで、イギリスや北米でも生産されているが、国内で大ヒットしたのは、2年前に「eパワー」という日産独自のハイブリッドシステムを搭載したモデルを出してから。

ハイブリッドカーは日本でしか人気がないが日本では大人気

 プリウスが爆発的に売れまくっていた頃、多くの日本人は「世界中でプリウスが売れている」「プリウスは日本を代表するグローバル商品」と勘違いしていたが、実はプリウスは、海外ではそれほど売れていなかった。日本5割、北米4割、その他1割という感じで、決して日本を代表するグローバル商品ではなかった。  実はハイブリッドカーは、日本でしか人気がないのだ。  理由は、メカが複雑な分、値段が高いから。いかに燃費が良くても、それをガソリン代で取り返すのはほとんど不可能だ。それでいて走りは退屈。海外市場での評価は、決してそれほど高くない。

リヤスポイラーやリヤバンパーの形状を最適化することで、空気抵抗を増やすことなく、より大きなダウンフォースを発生させてるそうです

 しかし日本は、道路環境が非常に特殊で、とてもゴー・ストップが多い。こういう環境では、低速ではエンジンが止まってモーターで走ったりしてくれるハイブリッドカーは、駆け抜けるヨロコビは少なくてもストレスが小さい。ハイブリッドほど渋滞に適したパワートレインはなく、まさに日本向きなのだ。  日本人の特性として、固定費を嫌うというのもある。最初の出費(車両価格)が大きくても、燃費が安いほうがウレシイのだ。日本人は世界一、ケータイの電池残量が気になる民族だと言われるが、万事先憂後楽で農耕民的なのである。ケータイの充電同様、EVは電池残量が気になってダメ。日本の環境や日本人の性質にピッタリなのが、ハイブリッドカーなのだ。  で、ノート大ヒットの鍵となった日産独自のハイブリッドシステム「eパワー」だが、実はこれ、日本市場のために開発されたもので、国内でしか販売されていない。

ノートの大躍進は「eパワー」にあり!

「eパワー」の特徴は、ガソリンエンジンで発電しながら走るEVだということ。EVはアクセルを離した時、どれくらいモーターで回生発電させるかを自在に設定できるが、ノートeパワーはその回生発電を強くするモードを持つことで、ブレーキを踏まずに、ほぼアクセルペダルの操作だけで運転できる。この新鮮味が爆発的ヒットの原因だと言われる。  確かにこのワンペダルドライブ、ゴー・ストップの多い日本の市街地でも、ダイレクト感があって楽しい。ブレーキを踏まなくても走れるのもラクチン。燃費はプリウスには届かないが、フツーに走ってリッター20km近くいく。楽しくてストレスがなくて燃費もいい。いいことずくめだ。
ノートeパワーNISMO S

「セレナe-POWER」のパワーユニットが移植されている

ノートというモデル自体は、すでに登場から6年以上たっていて新鮮味はないし、デザインも足回りも居住性も、すべてが実に平凡な実用車だが、それがeパワーの搭載でここまで化けるとは、まったく予想できなかった。  ノートのうち、eパワーの販売台数は約3分の2を占めるが、日産もまさかこんなに売れるとは思っていなかったはず。にもかかわらず、日本市場のためだけにeパワーを開発したのは、収益重視の外資系グローバル企業である日産にしては、実に英断だった。その最終判断を下したのは、会長だったゴーン氏のはず。  そのゴーン氏が、ノート国内販売ナンバー1のニュースを拘置所で聞くことになったのは、虎は死して皮を残すとでも申しましょうか……。 取材・文/清水草一
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート