「街の床屋」はなぜ潰れない? 店主を尋ねてみると…
時代が変われば仕事も変わる。あんなに流行っていたものもあっという間に忘れ去られたり、あんなに街中にあったものもまったく見かけなくなったり、盛者必衰とはよく言ったもの。令和の時代、衰退の一途を辿っているのが「街の床屋さん」である。
駅から徒歩4分という好立地にその店はある。よく言えばレトロだが寸法通りにいうと古びた建物で、青山や表参道の美容室と違って中が見えない。窓には「TRENDY HAIR」と、時代の止まったキャッチコピーが掲げられていた。
特に予約をせず飛び込みで来店してみると、50がらみの店主は「まさか」といったような驚いた表情で立ち上がり、イヤホンを外した(ラジオか何か聞いていたようだ)。
散髪をしてもらいながら、お話を聞く。
――ここは創業何年くらいですか?
店主:50年とちょっとになると思います。父親の代からですので。
――2代目なんですね。ご自身に代替わりされてどのくらいになるんですか?
店主:父と二人でやってた時期もあるんですが、私一人になってからは20年経ちましたね。
――ここ20年、またお父様の時代から考えてお客さんの流れは変わりましたか?
店主:そうですね。昔は子供も大人もみんな来ていましたが、最近はもう子供はまったく来なくなりましたね。それから、若い男性もすごく減りました。
――若い男性が美容室に行くようになったということですか?
店主:それもあるとは思いますが、なにより景気の低迷ですね。景気が悪くなってからは、いわゆる「1000円カット」のような店に行っているようで。
――多い時はどのくらいのお客さんが来てたんですか?
店主:多い時は1日20人以上という時代もありましたよ。ですが、ここ何年かは…。それと昨年、母が大きな病気になりまして、私が介護をしなくてはならなくなり、5ヶ月間お店を閉めていたんです。今年の1月8日から再開したんですが、なかなか大変です。
――1日平均でどのくらいのお客さんが来るんですか?
店主:もう、ゼロという日がほとんどですよ。
――それ、やっていけないですよね…どうやって日々を過ごしているんですか?
店主:そうですね。バブルの頃に買っていた不動産が、二間だけなんですけどありまして。それを貸してなんとか。あとは、母の保険金を切り崩しながらという感じですね。
東京商工リサーチが発表した2019年「理容業・美容業倒産動向」調査では、理容業・美容業の倒産件数が1989年以降の30年間で最多となる119件。どの街にも一軒くらいある床屋だが、店内を覗いてみるとお客が入っていない様子をよく見かけ、厳しい現状が分かる。こうしたお店は、実際にどうやって経営を成り立たせているのか。筆者自宅近くの杉並区にある、古びた床屋さんに話を聞いてみた。
全盛期は1日20人もの客。現在は……
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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