更新日:2020年09月11日 14:58
仕事

「サイゼリヤのバイト」を続ける一流シェフ。高級店と兼業する深い理由

 イタリアンレストランチェーンの「サイゼリヤ」と、9年連続でミシュランガイドの一つ星を獲得している目黒のイタリアン「Restaurant L’asse(ラッセ)」。同じイタリアンを提供する飲食店でありながら、かたや格安チェーン、かたや星付きのレストラン、対極に位置するといっても過言ではない。だが、両店で腕を振るう異色の料理人がいる。「Restaurant L’asse」のオーナーシェフ・村山太一氏だ。

本場イタリアの名店で副料理長まで上り詰めた男の葛藤

 村山氏は、イタリアの名店「Dal Pescatore(ダル・ペスカトーレ)」で、スーシェフ(副料理長)にまで登り詰めた実力派。帰国後は、イタリアで最長の27年間にわたり、三つ星を守り続けている老舗で鍛えた腕を「Restaurant L’asse」で振るっている。そして、そのかたわらでサイゼリヤでのアルバイトを続けているのだ。 「飲食業界では、多くの店が5年しか持たないと言われています。うちも5年目までは収入が増えていたのですが、そこからはあまり伸びなくて、ミシュランガイドで星を獲ってもこんなもんなんだなと、当時は悶々としていました。そこで、ほかの店に研修にいってみようと思ったんです」
村山太一

村山太一(撮影/山川修一)

 村山氏が目を付けたのが「Restaurant L’asse」と同じ星付きの店や、形態が似ている高価格帯の店ではなく、格安チェーンのサイゼリヤだった。

「一番下っ端」で働いて、サイゼリヤ流を学ぶ

「僕は中学生のときから経営者の本を愛読しているのですが、飲食業界の経営者は、食べる人、働く人、関わる人を幸せにしながら、その母数を増やすのが主な仕事だと思っています。  マクドナルドは年間約6億人、サイゼリヤは年間1億3000万人の人を幸せにしているのに対して、星付きの店でも20席程度の規模だと、年間8000~1万人の人しか幸せにできていません。もちろん、個人店とチェーン店ではビジネスとしてはまったく別物ですが、同じ飲食業界ですし、これだけ多くの人を幸せにしながら合理的に経営しているなら、学べることはあるはず。  サイゼリヤの創業者で会長を務める正垣泰彦さんの著書『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』に、“一流料理人でサイゼリヤの商品開発に携わってくれる変人がいたら、ぜひきてほしい”という一文があったので、恐縮ながら一番下っ端のアルバイトで働いて、サイゼリヤのことを理解しようと考えました。アルバイトが効率的に働けるなら、それだけ素晴らしい会社ですからね」  こうして「面接担当者も驚いていた」という一つ星レストランのオーナーシェフと、サイゼリヤのアルバイトの二足のわらじの生活がスタート。今でこそ、アルバイトに入る日は減ったというが、アルバイト開始当初は正月三が日にフルタイムで働くなど積極的にシフトに入っていたという。
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バイトを通じて体感した「サイゼの凄み」
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「レストラン ラッセ」オーナーシェフ。1975年、新潟県十日町市生まれ。三ツ星レストランの「ダル・ペスカトーレ」で副料理長を務めたのち、無印良品有楽町店にある「Cafe&Meal MUJI」勤務。2011年5月、「レストラン・ラッセ」をオープン、9年連続で一ツ星を獲得。 しかしレストラン経営に限界を感じ、2017年よりサイゼリヤ五反田西口店にてアルバイトを開始する
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▼店舗情報 Restaurant L’asse(ラッセ) 〒153-0063 東京都目黒区目黒1-4-15 ヴェローナ目黒B1 営業時間/ランチ12:00~14:00(L.O.13:00)、ディナー17:30~22:00(L.O.20:00) 定休日/日曜日
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