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狂気と化しているプーチンの言動を、日本はどう捉えればよいのか/倉山満

「ロシアの言い分に耳を傾けよ」耳を疑うような言論たち

 それにしても、「DS」だの「光の戦士」だの、ここまで“ラリっている”言論はネット特有だが、地上波のテレビでも耳を疑うような言論が、平気で飛び出す。その代表が、「ロシアの言い分に耳を傾けよ」「ゼレンスキーは抵抗をやめ、早く降伏せよ」だ。理由は、「一般市民に犠牲が出るから」だ。この手の言論が生存できる一事を以ってしても、日本でいじめが無くならないのが理解できよう。  誰の眼にも明らかに、一方が殴りかかった。殴られている側が必死に身を守っている時に、抵抗をやめたら一方的に殴られるだけではないか。それが国の場合、女は犯され男は良くて奴隷、そして悪ければ男女関係なく殺される。仮に殴っている側の言い分を聞くにしても、殴るのをやめさせてからだ。  そしてウクライナがプーチンに対して抵抗をやめたとしよう。もしかしたら、抵抗をやめた方が死ぬ数は多くなるかもしれない。だが、死人が多いか少ないかは問題ではない。敵の支配を認めれば、生きるも死ぬのもプーチン次第だ。

国際法に従えない国は文明国として扱われない

 この程度の理屈もわからないのでは、国際標準の議論にはついていけまい。国際社会は、プーチンを「露骨に国際法を破った無法者」と非難する。その「国際法」が何なのか、日本人の何人が理解しているか。  国際法とは、法律のように誰かに強制される法ではない。国際社会の合意として成立している慣習だ。この慣習は掟でもあり、従えない国は文明国として扱われない。  国際法には、大きく二種類ある。一つがユスアドベルム、戦いの正当性に関する掟。もう一つがユスインベロ、戦い方の正当性に関する掟だ。

プーチンは開戦事由、戦い方、正当性双方に違反している

 結論から言うとプーチンはユスアドベルムとユスインベロの双方に違反しているのだが、中身は違う。プーチンとその支持者は「NATOが東方拡大の約束を破ったから」とウクライナの領土を戦車で踏みにじった。この「他国の領土を許可なく戦車で通る」は、ユスインベロだ。ユスアドベルムにおける正当性が証明される限り、まったくの正当な戦い方だ。ただし、仮にユスアドベルムの正当性が証明されなかったとて、違法ではあるが犯罪ではない。ましてやプーチンの命令に従って戦ったロシアの軍人個人に責任はない。  またプーチンは、「ウクライナがロシア人を虐殺している」と自らを正当化しているが、開戦事由にはならない。それが一国の判断で許されるなら、侵略戦争はやりたい放題だ。仮にユスインベロに関してウクライナに非があったとて、ロシアをユスアドベルムで正当化できない。
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プーチンの所業は違法ではなく、明確な犯罪だ
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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