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困窮する母子家庭にお弁当を。飲食店で巻き起こるシングルマザー支援ムーブメント

渋谷区で3歳と5歳の子供を育てるシングルマザーは、「3月末で派遣の契約が切れ、失業保険で生活しているのでとても助かります」とお弁当の到着を喜んだ

 新型コロナウイルスの影響が経済に及ぼした打撃は計り知れない。なかでも飲食店の窮状はよく伝え聞くところだが、六本木のとあるレストランバーが始めた「コロナの影響で生活が苦しくなったシングルマザー&シングルファーザーとその子供に飲食店が作ったお弁当を無料で届ける」取り組みに、大きな注目が集まっている。プロジェクトを牽引する「ノザカザ(Noza Caza)」店主の笹裕輝さん(31歳)に話を聞いた。

株式会社SASA代表。1989年兵庫県生まれ。新宿の飲食店でキャリアをスタートし、2年前に独立

「21歳で上京してからずっと飲食業界で働いて、2018年に念願の独立を果たしました。スポーツ観戦も楽しめるイタリアンを営業していましたが、コロナによって客足は激減。外資系の方も多く、リモートへの切り替えが普通の会社より早かったことで、結果として僕らも早くから危機感を持てたことは、今となってはありがたかったと思います」  当初は店の存続をどうするか考えていた笹さんだが、ニュースで学校の一斉休校や休職者の増加を知り、いてもたってもいられなくなった。笹さん自身の生い立ちが、「今困っている親子」を想起させたのだ。 「3歳の時に親が離婚して、母親に女手一つで育てられました。毎日、昼は美容室、夜はスナックで働く母の背中を見て育ったので、もし自分が子供時代にこの状況だったら……と考えてしまって。すぐにスタッフに今ある食材の確認をして、お弁当を届けることにしたんです」

幼少期の笹さん母子。誰よりも「母を尊敬している」という笹さんにとって、幼少期の辛い体験は現在ではモチベーションの糧になっている

「港区でも困窮世帯がこんなに!」

 困っているシンママ世帯を、少しでも楽にしたい。  すぐさま行動に移した笹さんは、4月13日にシングルマザー2家庭に4つのお弁当を届けた。すると、口コミで問い合わせが殺到――あまりの反響に、誰よりも笹さん自身が驚いた。 「地方出身の僕にとって、港区はお金持ちが住んでいるエリア。こんなにも生活が困窮している家庭があるのか! とびっくりしました。ボランティアなんてやったことがなかったので、当初は持ち出しで支援を始めたんです。店舗経費など含め300万円ほどの赤字になってしまいました(笑)。幸い融資を受けられることが決まり、僕らの取り組みに共感してくださる方々からはお米や野菜といった食材の提供もいただくようになった。こうなったら、やるしかないですよね。本腰を入れてプロジェクトとして運営することにしたんです」

普段はイタリアンのシェフとして腕をふるう石村航平さん(24歳)が作るお弁当。この日のメニューは、きのこの炊き込みご飯と焼き鮭、きゅうりの胡麻和えなど栄養バランスを重視

すべてのお弁当には、支援者からのメッセージも貼り付けている

 こうして立ち上げたのが「I(飲食店が)N(日本を)G(元気に!)プロジェクト~2020」だ。4個のお弁当から始まったこのプロジェクトで、現在(5月14日)までに1800個以上のお弁当を、毎日およそ200個を100家庭に配達している。
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急速に広がる“支援の輪”
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