渡辺浩弐の日々是コージ中
第481回
10月17日「こ、これは……」
・お台場でデジタルコンテンツエキスポという最新技術展覧会を見学。少女型ヒューマノイド「未夢」のダンスライブが話題になったあのイベントだ。僕もそれが目的だったが、もう一つ、東大と慶大の共同ブースで行われていた「リプロ3D」という技術のプレゼンが面白かった。
・立体映像として空中に浮かび上がるのは、身長約3センチの姉ヶ崎寧々さん。触ろうとすると、ちょこちょこ逃げ回る。指に巻いた特殊ベルトの振動によりその感触がリアルに伝わって来る。ぴちぴち跳ねる金魚をいじくり回しているみたいな背徳感。目に見えない性感帯を刺激されるような気持ち悪さ(=気持ち良さ)。この先にあるもののヤバさに、業界のきせいちゅうは気づかないだろう。しめしめ。
11月11日「PSの過去と未来と」
・11月11日発売の『ファミ通』と『電撃プレイステーション』に、渡辺浩弐が出てますよ。
・『ファミ通』ではプレイステーションについて、思い出話をした。もとSCEプロデューサー、赤川さん(現・ラルクス社)の連載ページ「1994.12.03 ゲーム業界温故知新」だ。プレステ創成期いやさらにそれ以前、任天堂とソニーのジョイントプロジェクトだった頃、かなり深く立ち入って手伝っていた時期があった。その数年間のことは今までどこでも話したことがなかった。つまりウィキペディアにも載ってない事実。
・赤川さんはまだ若く、昔話だけではなく新しい話も面白い。近々改めて対談させて頂きたいと思う。ニコニコ生放送がいいかも。
・『電撃プレイステーション』ではプレイステーションについて、未来予想を話した。編集部の遠藤さんから頂いたのは「PS への提言」というテーマだった。僕はプレイステーション3はこれからが旬だと思っていて、その理由についてしっかり語る機会は、ありがたかった。
・取材していただいた時期はかなりずれていたので、発刊時期が一致したのは偶然だ。というか個人的にトンネルを抜けたので、今後は頂ける機会はがんがん受けていきますよろしくです。
第479回
9月29日「3DS考察」
・任天堂の新ハード「ニンテンドー3DS」(’11年2月発売予定)の発表会に行き、各タイトルを体験してきた。特別なメガネをかけなくても画面が立体として見える「裸眼立体視」技術を携帯機に採用したことが、最大の発明である。このシステムは、小さな画面を、しかも自分の手で持って見る携帯ゲーム機に非常に向いている。かなり高品位の立体映像を、快適に、長時間見続けることができる。各タイトルについてのレビューは機会を改めるが、いずれも、脳の新しい部位が目覚めていくような気持ちよさがあった。
・本体機能が充実していて、3Dのデジタルカメラとしても使える。3Dゲーム+3Dカメラの機能で、本体だけで『ARゲームズ』を遊ぶことができる。AR(拡張現実)コンテンツは、アイフォンなどで実験的なものが既にいろいろ出ているが、さすが任天堂といえる仕上がりである。
・本体の、ハード機能をわずかに延長しただけで画期的なゲームになる。この発想が、3DSの大きな特徴である。他にも例えば、3DSを持った人どうしですれ違うだけで自動的に何かが起こる「すれ違い通信」機能が劇的に進化している(例えば『ラブプラス』では、”彼女”どうしが噂話をして情報を拡散させる、とか)が、これは、ハードウェア自体で、それを持っている人間の行動をゲーム化できる仕掛けである。
・かつてソフトとハードを分離する発想によって「ファミコン」というお化け商品を生み出した任天堂が、今、ソフトとハードを融合する試みを始めた、とみるとわかりやすいと思う。岩田社長が「タマゴとニワトリ問題」というキーワードを何度も発言していた。その解決策が、ここにある。コンテンツを体験する仕組みを根本から変える試みであり、これはゲームにかぎらず映画においても、3D革命の最前線には、重要な発想だと思う。
・映画界はこの問題に先にぶつかり苦闘を余儀なくさせられている。インフラが少ない状況では、予算をかけた大作がどうしても作れなかったわけだ。『アバター』という超ブロックバスタータイトルの出現で、3D対応の映画館は激増したが、3Dテレビなど家庭用のシステムはまだまだ伸び悩んでいるのが現実である。
・数十万円かけて専用ディスプレイを買い、その画面に正対するベストポジションに席を設け、専用のメガネを装着する。もちろん寝ころんで見ることはできない。その出費や手間が、マニア以外にはどうしても重いのである。そこで3DSには、3Dの映画やアニメを気楽に見るためのプレイヤーとしての可能性も出てくるわけだ。2万5000円のマシンで、いつでもどこでも、メガネなしで見られる。画面のサイズやレゾリューションにこだわるなら映画館で、気楽に楽しむなら3DSで、という位置付けが定着するかもしれない。マニアがハイファイ環境の整備に邁進していたころ現れたウォークマンのようなステイタスが想定される。