俺の夜
もうすぐ「啓蟄」。土に潜っていた虫たちは一斉に地上に顔を出すときだ。週末の繁華街に出てみれば、飲食店や夜遊びの店は人人人。男たちの“遊びの虫”も疼きだしているようだ。「最近遊んでます?」俺の心を見透かしたように声をかけてきたのは夜遊びガイドのO氏。
「ショーパブ激戦区の六本木に一風変わった店があるんです……」
早速向かったのは、芋洗坂下。老舗ビルの一角にその店はあった。
「いらっしゃいませ……」
妖艶なイリュージョンをお見せします!
入り口に立つゴシック調の等身大の人形。天井にはシャンデリア、カウンターバーの周りには額に入ったキャストの肖像画、シックでゴージャスで妖しげな空間は、いやが上にも俺の心拍数を上げる。いくつかのボックス席が並ぶ先には、ビロードの幕がゆらゆらと揺れる半円形のステージ。真正面の“かぶりつき”に案内された。「ここはマジックとイリュージョン、ダンスが一体となった総合エンターテインメントバーです」
鮮やかな手つきでカクテルドリンクを作ってくれた店長氏はマジシャン。幕間には各テーブルを回って魔術を見せてくれるという。
テレビで見たあのシーンが……
スモークのツンとした匂いが立ち込めると突如暗転。大音量の『ラ・ラ・ランド』のテーマが俺の尻を突き上げてくる。幕が開くと、そこにはセクシーな衣装に身を包んだ美女たちがズラリ。 目の前で繰り広げられる激しいダンス。フロアに下りてきては、我々の顔をかすめるように踊る。再びの暗転、一瞬の静寂。音楽と照明がメロウになると衣装が替わっている。なんということでしょう!「熱湯コマーシャル」の生着替えで見た“例の幕”が現れ、美女の体を隠す。幕をパッと落とすと見事な美尻が2つ。またまた衣装が替わっているではないか!
拍手喝采のフロア。さらに、一人の美女が床に横たわると、全身を布で覆われた。「もしや……」。もう一人が布を包み込むように手を動かすと、徐々に浮かんでいく体。かつてテレビで見たイリュージョンを間近で見られるとは!完成度の高いダンス&イリュージョンはなんと一日4回。すべて内容が異なるというこだわりよう。最後はダンサー全員とハイタッチ。チップを弾めば、ダンサーさんたちと記念撮影のご褒美が。
「キャストは元宝塚や、アーティストやテーマパークのバックダンサーなど、本当のプロばかりです。ひとつの演目を完成させるにはひと月はかかるんです」(店長)
とはいえ、お値段はチャージを合わせても1人7000~8000円で時間制限なしと超お得。周りを見渡すと若い男女のグループやカップルも多く、幕間のテーブルマジックで盛り上がっていた。
ここは春爛漫。ひと足早い“花見”に出かけてみてはどうだろう。
【L&S TOKYO】住:東京都港区六本木5−8−2 HEIBON六本木ビル5F
電:03-6434-9111
営:20時~LAST
休:日・祝日
料:男性3000円、女性2000円、ショーチャージ2000円、ドリンク・税別
ショーは20時半、21時半、22時半、23時半の4回
撮影/渡辺秀之 協力/O氏(夜遊びガイド)
年末から怒涛のように忘年会、クリスマスパーティ、新年会など例年になく酒を飲んだ。巷の景気は少しは良くなったのだろうか、お誘いの回数が増えたのは大変光栄なことなのだが、齢40を過ぎた身にとって、連日連夜の飲み会は体にも財布にも堪える。
エナジードリンク否、滋養強壮ドリンクを極細ストローでチュウチュウすすりながら今夜の新年会の詳細を確認していると、夜遊びガイドのO氏から着信が。
「渋谷にいるんですか? 今、話題のあの店にはいきましたか?」
聞けば、疲れ気味のおじさんたちに大人気の「癒やしのスポット」として連日連夜、盛況なのだとか。
癒やしのスポット 入り口には行列が
飲み会前にと、馳せ参じたのは道玄坂。ぐいぐいと袖を引いてくる客引きをかいくぐりながら着いたのは、味のある老舗商業ビル。入り口前の路上に置いてあるA型看板に足を止めるご同輩。「すっぴんカフェバー」という文言が異彩を放っている……。古いエレベータがゴトンと音を立て止まる。煤けた壁の一角。カラフルに輝く、素通しのドアから店の中を覗き込むと、ご同輩がずらりと列をなしているではないか。
ドアを開けると目に飛び込んできたのはカウンターのなかで微笑む女のコたち。明るめの照明、背後に流れるはジャズ。耳をつんざくような声を発する、体育会系のボーイもいなければ、カラオケ、もちろんEDMもない。「こんばんは」。にっこりと微笑みながら向かいに座ってくれたのは明日香ちゃん(19歳)。ボーダーシャツにショートパンツ。くるぶし丈の白ソックスにスニーカー姿。しかも、下の看板に偽りなくすっぴん。実年齢よりも若く見える。
「ここはメイクやネイルは禁止なんですが、私は普段からメイクはしない派なんです。乾燥防止のためにリップはしていますが、本当にそれだけなんです」
きめ細やかな肌は思わず目を見張るほど。“すっぴん風メイク”も巷でははやっているそうだが、明日香ちゃんの場合は乳液とクリームでのお手入れのたまものとか。
「嘘だと思うなら触ってみてもいいですよ」と口を尖らせるほど。顔を近づけてご尊顔を拝見させていただいたが、まるで乳児のよう。周りを見回していても、化粧をしているコは皆無。新宿・六本木界隈の“夜の蝶”なら化粧やネイル、香水など“盛り”を褒めるのだが、なんの衒いもない“素”。こうなると神々しくさえ感じてくる。
「私たちがすっぴんなせいか、お客さんも飾らない、ナチュラル派の男性が多い気がします」
確かにご同輩を見れば、ほとんどが単独男性。色黒筋肉質やホスト系は皆無。グループも大声を出したりせず、穏やかに飲んでいる。
カウンターの奥ではせっせと料理をする女のコ。日替わりで女のコの手料理も食べられるという。
「私の作った料理も食べにきてくださいね!」エプロン姿でかいがいしく料理する様子を見ていると、女子校の文化祭に紛れ込んだよう。すっぴん女子たちは、おじさんを甘酸っぱい気持ちにさせる……。
【NATURALIA(ナチュラリア)】
住:東京都渋谷区道玄坂2-10-12新大宗ビル3号館6F
電:03-6277-5673
営:15~24時
休:なし
料:10分300円(15~17時)、10分400円(17~24時)飲み放題●日替わりの手作り料理は500円(ご飯つき)
協力/O氏(夜遊びガイド)撮影/渡辺秀之
大阪は夜遊び界にとって常に斬新なアイデアを提示してくる街であり、それはやがて東京に流れてくるのが常だ。夜遊びガイドのO氏も「ミナミにとんでもないビルができたので見てきてほしい」と言うので、すぐさま新幹線に飛び乗った。
アジア系の観光客でごった返す道頓堀。グリコの看板前や、戎橋のたもとのたこ焼き屋台やラーメン店は一様に行列で、ボリュームの大きい外国語が飛び交っている。
そぞろ歩きしていると、外国人たちが立ち止まり、中の様子を伺い、撮影をしている場所が。
「ある夜、ビルの片隅で」と大書きされた看板。一棟の壁が巨大でド派手なアニメのイラストで埋め尽くされている。これが例の……おののく俺。恐る恐るドアを開けると、ポップな内装の部屋に、さまざまなコスプレをした女のコがわんさといるではないか!
極めし者の巣窟!? ビル一棟がコスキャバ
「いらっしゃいませ」。執事風でイケメンの店長氏が極めて冷静にシステムを説明してくれる。「ビル一棟がコスプレキャバクララウンジとなっており、まずは1階のバーでレイヤーのコを吟味しつつ、気に入ったコがいれば、2~4階に上がり、お話できるシステムとなっております」
客はここでは尊敬の念を込めて「タニマチ」と呼ばれ、“彼女たちの夢を応援する”というミッションを授けられる。そう言えば、お隣は「谷町」。タニマチの語源となった町だ。“夢を応援する”というコンセプトはおじさん冥利に尽きるが、コスプレ女子と話すのには慣れていない。ドギマギしていると、次から次へとレイヤーたちが挨拶にくる。 何のコスなのか皆目見当つかないが、そんな俺の動揺を見透かしたのか、スマホで「オリジナルキャラ」を見て、今日のコスに対する思いの丈を語ってくれるのが嬉しい。俺は漫画『デスノート』(これくらいは知っている)のミサミサコスの、ななり~☆ちゃんと、ゲーム『プリパラ』の白玉みかんコスの密秘ちゃんを“緊急召喚”(=場内指名)。ここでは指名は召喚、出勤は参戦、退勤はコンプリートなどコンセプチュアルな専門用語が飛び交い、独特の世界観に浸ることができる。上のフロアに繋がる階段は、迫力あるオノマトペで埋め尽くされており、テンションが上がる。
2階のラウンジではゆっくり腰を落ち着けてトーク。レイヤーさんたちは常日頃から暑がりだそうで「夏場はヅラやコスチュームで蒸れて、ぶっ倒れそうになった」(ななり~☆ちゃん)と「コスプレ裏話」を披露。デスノートと関西人ノリのギャップが萌える。すっかり打ち解けたところで、カラオケのお誘いが。アメリカ人アーティストが手がけたというクールな壁画が目玉の最上階の「宴の間」に移動。俺でも知っているエヴァンゲリオンの名曲「残酷な天使のテーゼ(’95年)」を一緒に熱唱し、声をからした。 【ある夜、ビルの片隅で】住:大阪府大阪市中央区宗右衛門町2-17
電:06-6214-9000
営:19時~LAST
休:月
料:60分5000円~(1Fのバーはノーチャージ、ドリンク500円60分制)
通称「あるので」という呼び名で親しまれるミナミの新ランドマーク