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「この感覚、初恋のときと同じだ」――46歳のバツイチおじさんは新たな出会いにビンビン感じた〈第36話〉

「あれ? 何でこんなこと赤裸々に思い出してるんだろう?」 旅をするとよく過去を振り返る。自分自身を見つめなおし、インドに来ると人生観が変わるともいう。その兆候が出始めたのかもしれない。 この日も40度を超える猛暑だった。いつものように朝2時間のシヴァナンダ・ヨガを終え、いつものようにブランチを食べに海沿いの崖の上にあるコーヒーテンプルに向かっていた。

バルカラビーチを見下ろせる崖の上にはお洒落なカフェなどが立ち並ぶ

海のほうを見ると今日もまたたくさんの白人美女たちがビーチに横たわっている。 だが、失恋直後の今の俺には、そんなビーナスたちと仲良くなる元気がない。 俺は海辺の方から目をそらし、伏し目がちに逆サイドを見ながら歩いた。 すると、インドに来て初めて若い日本人らしき女性の横顔を見つけた。 「ん?」 俺はドリフのように二度見した。久しぶりに見る日本人女性。しかも……。 「めちゃくちゃ可愛い!」 この感覚、初恋のときと同じだ。 俺は歩くのをやめた。 「話しかけようかな~。でもな~」 外国人相手だと、なんだか別人格になりきれる自分がいるが、日本人が相手だと正直かなり恥ずかしい。ナンパみたいな感じも嫌だ。だが、ここは南インドでもっとも美しい「恋のビーチ」。気温も灼熱40度。気分は開放的。俺は意を決して話しかけることにした。 俺「あのーー、日本の方ですか?」 女性「あ、はい」 俺「いきなり声かけてすみません。インドに来て初めて見る日本人だったんで」 女性「ですよねー。南インドってほとんど日本人いないですよね」 彼女の名ははるりちゃん(仮名)27歳。長崎県出身でオーストラリアの大学を卒業した、笑顔がチャーミングで小柄な女の子だ。

るりちゃん27歳。笑顔がとてもキュート

俺「あの、座ってお話してもいいですか?」 るり「どうぞどうぞ。私もぼーっと海を見てたとこなんで」 「どうも」を二回言うのは童貞の証だが、「どうぞ」を二回言うのはダチョウ倶楽部のようだ。 つまり、気が廻る娘なんだろう。おかげで気まずさが一気に吹き飛んだ。 俺「一人旅ですか?」 るり「はい。私、今ヨガの先生やってて、インドにヨガの勉強しに来たんです」 俺「えー! そうなんですか? 実は俺も今、宿の屋上でヨガを習ってるんです」 るり「へー、そうなんですね。どうです? 先生」 俺「いや、俺、初心者なんで先生が良いかどうかなんて全くわからないんだよね」 俺とるりちゃんはヨガの話で盛り上がった。向こうにとっても、初心者のおじさんがヨガをやってどんなポイントをどういう風に感じるかが気になるらしい。 るり「そこって誰でも参加できるんですか?」 俺「うん。宿に泊まってる人は無料で、一般だと一回200ルピー(340円)だと思う」 るり「一回行ってみようかな~」 俺「おいでよ! 仲よかった人がいなくなって寂しいんだ今」 るり「じゃあ、明日行ってみますね」 俺はるりちゃんと連絡先を交換し、明朝8時に一緒にヨガをやる約束をした。 「やっぱ、汗を流すと良いことあるな!」 テンションがマイナス100%からプラス100%まで心の中の針が振り切れるのを感じた。 我ながら単純な自分が嫌になる。 翌朝7時50分、俺はヨガマットの上で柔軟をしていた。 まだ、るりちゃんの姿は見えない。 「5分前なのに、どうしたんだろう……」 嫌な予感が頭をよぎった。 7時57分。インド人のヨガの先生アンジュが来た。るりちゃんはまだ来ない。

ヨガの先生アンジュと瞑想をする46歳のバツイチおじさん

「もしかして……来ない?」 考えてみれば、元々興味を持っていただけなのに、俺が強引に誘ったのがきっかけだ。 「そんなもんだよなー、女なんて。所詮」 8時。ヨガの開始の時間。 アンジュ「そろそろ始めようか」 その時だった。 るり「ごめんなさーい。宿の場所が全然わからなくって」 時間ちょうどにるりちゃんが到着した。ヨガ衣装に着替えた姿が可愛い。 俺「(小声で)ちょうど今から始まるとこだよ」 彼女は目線で頷くと、素早くマイマットを引き、その上で瞑想を始めた。慣れた様子である。 シヴァナンダ・ヨガのレッスンは15分の瞑想から始まる。瞑想が終わると簡単な柔軟とストレッチにも似たポーズで筋肉をほぐす。その後、太陽礼拝という10個のポーズをゆっくりとする。 ヨガ初心者の俺にとってはどのポーズも難しく、完璧なポーズなど一つたりともできない。ヨガのポーズは日常生活でほとんど使わない筋肉を使う。しかも、同じ筋肉に長時間負担をかけないので、筋肉を痛めることがほぼない。ヨガで特に鍛える所は体幹であり、体の幹となる部分の筋肉を鍛えることで、片足で立っても倒れにくいバランスのいい筋肉をつけることができるのだ。 アンジュ「ごっつ、ゆっくり息を吐いて。ヨガは息を吐くのが重要。息を吐くと体の力が抜けるから」 いまだかつてやったことのない体の動かし方にかなり苦戦をしていた。先生のアンジュが見本を見せてくれ、それを見よう見まねで真似る。 日本のホットヨガ教室とは違って鏡もないので、今自分がどんなポーズをしているのかはアンジュからの指摘でしかわからない。 途中からアンジュは自らがポーズをするのをやめ、声かけだけで指示を始めた。ポーズは「ヘッドスタンディング」と言われる、肘で逆立ちをするポーズだ。もちろん、今の俺には到底無理なポーズ。アンジュはまだ、そこまで到達していない俺には「ショルダースタンディング」と呼ばれる肩で逆立ちをするポーズを薦めた。

シヴァナンダ・ヨガの基本ポーズ「ショルダースタンディング」を真剣に練習するバツイチおじさん

体をプルプル言わせながらそのポーズに挑戦したが、何度も失敗してコケる。俺は一息つくためヨガマットの上に座り込んだ。俺は何気なくるりちゃんのほうを見た。 「……美しい」 俺は一瞬で心を奪われた。 るりちゃんは完璧すぎるほどの美しいヘッドスタンディングをしていた。 アンジュは「もう彼女には何も教えることはない」という様子で見ている。 それもそのはず、いつも練習で見ているアンジュよりも美しいポーズなのだ。 その後、るりちゃんと二人でブランチを食べにコーヒテンプルに行った。 俺「どうだった?」 るり「うん。アンジュ先生、シヴァナンダのポーズにオリジナルを少し入れて組み立てているようね」 俺「ふーん。オリジナルがわかんないからな」 るり「私もインドにいる間にオリジナルなポーズを考えなくちゃいけないんだけど、行き詰まってて」 俺「なるほど…奥が深いんだね」 俺はるりちゃんに興味を持つようになっていた。 そして、シンプルなモチベーションが心の中にそっと生まれた。 「また会いたい」 俺はタイミングを見計らい、慎重に聞いてみた。 俺「夕方にもう一回ヨガのレッスンあるけど来る?」 るり「うーーん。どうしよっかなー」 俺「……」 るり「やめときます。なんとなくわかったし。あれだったら自分でもできるかな」 俺「……そうか。るりちゃん、アンジュより上手いもんね」 るり「そんなことないですよー」 やんわり断られた。ダメか。 いや、もう少し粘ろう。 あきらめたらそこで試合終了ですよ、だ。 俺「じゃあ今晩御飯でもどう?」 るり「どうしよっかなー」 俺「採れたての魚を料理してくれる店、発見したんだ」 るり「えーおいしそう~。行きたい!」 俺「オッケー、じゃあ7時30分にコーヒーテンプルの前に集合ね」 るり「はーい。了解しました」 再び会う約束を取り付け、俺はるりちゃんと別れた。
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「よっしゃーー! おし! 来てる来てる!」
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1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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