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「この感覚、初恋のときと同じだ」――46歳のバツイチおじさんは新たな出会いにビンビン感じた〈第36話〉

宿に戻り、ベッドの上でゴロンと横たわった。 久しぶりののんびりとした時間だ。 ふとスマホを見ると、フェイスブックにメッセージが入っている。 「誰だろう?」 メッセージを開いてみた。すると… るりちゃんだ! でも一体、何だろう? まだこのビーチにいるのかな? それにしても急にどうしたんだろう? るり【ごはん食べました?】 俺【食べてないよ】 るり【チベタンキッチン行きません?】 俺【いいよ】 るり【やったー!今から用意するので15分後くらいにお店どうですか?】 俺【了解! では現地で】 俺は慌てて身支度をし、チベタンキッチンに向かった。 二階に上るとるりちゃんが神妙な笑顔で手を振っている。

少し悲しげな笑顔のるりちゃん

るり「すみません。急に呼び出しちゃって」 俺「いや、大丈夫だよ。まだここにいたんだね」 るり「はい。でも、もう出ちゃうんですけど」 俺「あ、…そうなんだ。でも、どうしたの急に。なんかあった?」 るりちゃんの顔から笑顔が消えた。 そして、思い悩んだ顔で俺を見つめた。 るり「ごっつさん。ちょっと相談に乗ってもらってもいいですか?」 俺「え? ……う、うん。いいけど」 るり「この間、紹介したたかしくんって覚えてます?」 俺「もちろん。何かあった?」 るり「実は…告白されちゃったんです。結婚してくれって」 俺「えーーーーーーーー!」 るり「……」 俺「もうそんな関係まで行ってたの?」 るり「いや、付き合ってもないですし、まだ出会って数日しか経ってないです」 俺「あ、そうだよね。この間から数日しか経ってない」 るり「で、困ってるんです」 小、中、高と男女共学。女友達とも分け隔てなく付き合ってきた。 女友達はかなり多いほうだ。ついでに俺の心にはりゅう子も住んでいる。 こういう相談は人生で何度も受けてきた。こんな時は一旦気持ちを全部吐き出させてあげるのが一番だ。 ちなみに、連載を読んでる女性読者の皆さん、こういうプライベートな話を書くことはるりちゃんにちゃんと許可とって書いてますからご安心下さいね。 俺「詳しく聞かせて」 るり「一緒にバルカラビーチの隣にある岩がたくさんあるビーチに夕日を見に行ったんです」 俺「うんうん」 るり「そしたら、急に結婚して宮崎に住もうって。私、長崎出身なのに」 そう言ってるりちゃんは少し目を潤ませ下を向いた。 俺「で、OKしたの?」 るり「まさか。出会ったばっかりですよ」 俺「でも、彼、カッコいいし、楽器もやってるし、性格もいいじゃん」 るり「いや、タイプじゃないです」 俺「…なるほど」 るり「で、無理です。ってちゃんとお断りしたんです」 俺「そうなんだ。じゃあ悩むことないじゃん」 るり「そうなんですけど。同じゲストハウスで毎日会うから、気まずくって」 俺「…確かに」 るり「でも、逃げるように出ちゃうと、なんだか悪い気がして」 俺「うんうん」 るり「で、ずーーと誰にも言えなくて一人で悩んでたんです」 俺「…そっか」 るり「でも、今喋ってスッキリしました。ごっつさん、ありがとうございます」 そう言うと、少し晴れやかな表情に変わった。 それから、一緒にチベット料理のモモを食べた。 日本の餃子に味は近くて旨い。 おいしい食べ物は万事を解決させる。 その後、恋愛と少し離れた話題をふると、彼女から笑顔がこぼれ始めた。 るり「ごっつさん、本当にありがとうございますね」 俺「これからどうするの?」 るり「私、シヴァナンダ・ヨガのアシュラムに入ろうと思ってます」 俺「アシュラムって?」 るり「ヨガ道場のことです。朝5時から夜10時までずっとヨガをやり続けるつもりです」 俺「えーー! そんな場所があるんだ。どこにあるの?」 るり「ケララ州にトリヴァントラムって街があって、ここから電車で2~3時間のとこなんですけど、そこからまたバスに乗って2~3時間の山奥に二アダムって村がありまして、そこに南インドで一番大きなシヴァナンダ・ヨガの総本山的な場所があるんです」 俺「へぇー」 るり「そこで鍛え直してきます」 俺「鍛え直すって。もう、あれだけ上手いのに」 るり「ごっつさんもどうです? 一緒に行きません? シヴァナンダ・ヨガ・アシュラム。もっともっと鍛えられますよ」 え? 一緒に行きません? 行きません? 行きません?(リフレイン) 俺「少し考えてみる」 るり「気が向けば、ですけど」 俺「実はうちのヨガの先生のアンジュがこの暑さで参っちゃって、今日、急遽お休みなったんだ」 るり「先生からお休みって。アシュラムなら絶対そんなことはないですよ」 俺「確かに。ただ、俺、今、日刊SPA!ってウェブサイトに連載を持っていて、そろそろ締め切りなんだ。そこ、パソコン開けるような場所じゃないよね?」 るり「たぶん、ネットとかないと思いますよ」 俺「そっか」 るり「お仕事があるんですね。じゃあ、私、先に行ってます。気が向いたら来てくださいね」 俺「了解!」 そう言って、るりちゃんとお別れした。 翌日、るりちゃんは宿を引き払い、シヴァナンダ・ヨガ・アシュラムに旅立って行った。 俺は連載を書きながら、るりちゃんへ思いを馳せた。 今、どハマりしているシヴァナンダ・ヨガ。 しかも、その最高峰のアシュラムに誘われた。 そこには笑顔が可愛いるりちゃんがいる。 「行かない理由が……ない!!!」 気づくと、脳内iTunesに田原俊彦の『抱きしめてTONIGHT 』がかかっていた。 失恋の痛手を忘れ去るのは「自分を痛めつける」ことと、「新しい出会い」だ! ガルシアに対する失恋の悲しみは、この瞬間、完全に消え去った。 ♪~Oh TELL ME 心なら    TELL ME 動いてる    悲しみは続かない~ ♪~Oh TELL ME いつまでも    TELL ME 誰よりも    抱きしめたいよもっと~ 俺は鼻歌交じりにパソコンの電源を落とし、秒速で荷物をまとめ、軽やかな足取りでるりちゃんを追いかけ始めた。 新たな恋が始まる予感をビンビン感じていた。 次号予告『シヴァナンダ・ヨガの総本山でズンドコ展開さく裂!? 新たな恋の行方は?』を乞うご期待!
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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