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「この感覚、初恋のときと同じだ」――46歳のバツイチおじさんは新たな出会いにビンビン感じた〈第36話〉

「よっしゃーー! おし! 来てる来てる!」 夜ヨガが終わると、入念にシャワーを浴びた。 髭を剃り、白髪が見えぬようヘアーワックスでセッティング。 服は痩せて見えるよう黒のTシャツを選んだ。 バックパッカーだから3枚しかTシャツを持ってないけど、これがベスト。 気合を入れすぎぬよう力を抜いた感じが重要。 力を抜くには息を吐く。アンジュから教わった力の抜き方を思い出した。 5分前にコーヒーテンプルに到着すると、すでにるりちゃんが笑顔で手を振っていた。 性格の良さが笑顔の奥の目からから滲み出ている。とてもキュートだ。 るり「あのー、ごっつさん。紹介したい人がいるんですけど…」 俺「え?」 よく見ると、るりちゃんの隣には一人の男性が立っている。 るりちゃんに釘付けになってたので、全然気づかなかった。 誰だこいつ!!! るり「たかしくん(仮名)。日本人です。一昨日ここで出会って、私の宿を紹介したんです」 たかし「あ、どうも。初めまして、たかしです」 あちゃー。友達も来たんだー。 しかも20代でなかなかのハンサムじゃねーか。 るり「魚が食べれるレストランの話したら、一緒に来たいというんで連れてきちゃいました。大丈夫でした?」 俺「もちろん。みんなとワイワイやるほうが楽しいに決まってるじゃん!インドで出会った旅人はみんな友達だよ」 そういうしか、ないよねーーーーー。 俺らは3人でテーブルにつき、食事をオーダーしながら簡単な自己紹介を始めた。 俺「え、たかしくん、太鼓叩いてんの?」 たかし「はい。インドの古典楽器にタブラってのがあって、それをインドで練習してます」 俺「ヘェ~、かっこいいね」 たかし「そんなことないっス」 俺「いや、楽器やってる男はモテるよ。ねー、るりちゃん」 るり「うん。楽器やってる人ってかっこいいです」 んーーーー、そうだよねーー。 昔から音楽やってる男ってモテるよねーー。 俺「お! 魚が来た。食べよう食べよう」

新鮮な魚をその場で調理してくれたフィッシュカレー

それから3人は南インドで採れる美味しい魚を堪能した。そして、ワイワイと異様に盛り上がった。 しかもたかしくん、話せば話すほどめちゃくちゃ良い奴じゃねーか! るり「じゃあ私たち帰りまーす。ごっつさん、今日はありがとうございました!」 たかし「ごっつさん、本当にありがとうございました。楽しかったです」 二人は最近の若者には珍しく礼儀正しいお辞儀をし、お別れを言った。 俺は二人を見送り、一人夜道を歩いた。夜風が気持ち良い。 「なんだかなー。でも大丈夫。傷は浅い。大丈夫大丈夫」 南インドで最も美しいと言われるバルカラビーチ。ここにはいろんな恋物語がある。きっと若い二人にもそんな恋が始まっているんだろう。 「しかし、俺、モてねーーな!」 お月様がニヤニヤしながら俺を見ているように感じた。 月に向かってかめはめ波を打ってやろうかと思ったが馬鹿馬鹿しいのでやめた。 翌日から俺はさらにヨガに打ち込んだ。 こういう時は反復練習。息を吐きながら力を抜いて。 俺はもう完全にヨガにハマっていた。 俺の友はヨガの先生アンジュだけだ。

もはや親友レベルに仲良くなったヨガの先生アンジュとインド人化が進むバツイチおじさん

それから俺は少しメニューを加えた。夜ヨガが終わった後、バルカラビーチの隣の1キロ先にある通称『カルマを流すビーチ』まで歩くことにした。 カルマとは古代インドの思想で、因果応報のこと。行為と宿命には原因と結果があり、良い行い(カルマ)をすれば良い結果がもたらされ、悪い行い(カルマ)をすれば悪い結果がもたらされるという考え方である。カルマを流すビーチで沐浴、つまり水に入って体を清めれば、前世から背負った悪いカルマが流されるという聖なる場所である。 俺はこの超強力パワースポットで悪いエネルギーを浄化することにしたのだ。 「ヨガで体を清め、沐浴で精神を清める」 それから、俺は肉体と精神の修行に邁進した。 周りから見たらストイックすぎて引くくらいかもしれないほど精神世界にのめり込んでいった。

カルマを流すビーチ

数日が経った。40度を超える猛暑が続いていた。 筋肉痛はピークに達していたが、今の俺にはこの疲れが心地いい。 朝ヨガが終わりベッドで体を休め、夕方になると夜ヨガの準備を始めた。 この暑さの中、ヨガをやる生徒はついに俺一人だけになっていた。 「あれ? おかしいな。アンジュ、おせーな」 ヨガの先生、アンジュが来ない。 俺は一緒の宿に泊まっているアンジュの部屋をノックした。 俺「アンジュー、ヨガの時間だよー」 すると、アンジュが疲れた顔でドアを開けた。 アンジュ「ごっつ。この暑さだよ。俺、疲れた」 俺「お休みにする?」 アンジュ「ごっつが許してくれるんだったらお休みにしたい」 俺「…OK! 今日はお休みにしよう」 どうやら、俺のしつこさと暑さでアンジュも参っていたようだ。 アンジュ、しつこくてごめんな!

連日40度を越す猛暑で疲れ果ててしまったヨガの先生アンジュ

だがこの瞬間、俺は心の中で違うことことを考えていた。 「勝った!」 俺は自分自身に課した何かに勝ったような気がした。 それから、カルマを流すビーチでの沐浴に行き、精神を清めた。

カルマを流すビーチで沐浴をするインドの女性たち

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宿に戻り、ふとスマホを見るとメッセージが…
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