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美しすぎるタイ・バンコクの安宿オーナーを直撃「お見送りの言葉は『さようなら』じゃなくて『いってらっしゃい』」

手を差し伸べてくれてくれた友人たち

「ご飯を食べることすらままならなくなっていて。そんなときに助けてくれたのが、カオサン近くの路上でBarをやっているタイ人の友人でした」  ゆかりさんの事情を知っていた彼は、食事を無償で提供してくれただけではなく、毎晩のようにお酒もご馳走し精神的な支えにもなってくれた。とはいえ、飯は食えれど工事は一向に進まない。  不足している工事費用は借金するより他に手がなく、家族や友人たちに手を差し伸べてもらった。それでも資金は十分ではなく、ゲストハウスにある全24台のベッドはハンドメイドだという。 「原型はタイ人の大工さんに作ってもらって、ヤスリ掛けやニス塗り、ペンキ塗りは自分たちでやったんです。タイ人や日本人の友人たちが必死になって手伝ってくれたおかげで出来上がりました。みんな無償で手伝ってくれたので感謝してもしきれません」 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1352042
ゆかりさん-02

オープン前、ゆかりさんは自分自身でベッドのヤスリ掛けやニス塗りを行っていた

 友人たちが汗だくになってベッドを作り上げたが、エアコンやカーテン、窓などゲストハウスにとって必要最低限の物すら揃えられていない。そのような状況を見かねたタイ人の友人は、エアコン設置のために自らクレジットカードを貸してくれた。  当初、ピジューは300万円で改築できると言っていたが、蓋を開けてみれば支払った総額はおよそ650万円。足りなかった資金のおよそ半額は知人や家族からの借金だった。

「さようなら」ではなく「いってらっしゃい」

 オープンまで2週間ほどに迫った2016年3月末。著名なブロガーが「Long Luck」の部屋をすべて予約してくれるという、うれしい事態が起こった。 「その方が『Long Luck』のことをブログで褒めてくださったんです。すると効果がすごくて。記事を読んだ他のブロガーさんも来てくださって、その方々もブログで紹介してくれて、また増えていくっていう感じでした」  利用したブロガーが記事で取り上げ賞賛したのは、ゆかりさんの丁寧な接客や人間としての魅力に惹かれたからだろう。44ヶ国を旅してきた体験談はもとより、話し好きで面倒見もいい。ブロガーたちの発信や旅行者たちの口コミにより、20代のバックパッカー、30代から60代の旅行者も続々と訪れるようになった。78歳で世界中を回っている女性バックパッカーもリピーターだという。
ゲストハウス

バンコクでもっとも日本人バックパッカーが集まる宿だろう

 毎晩のように宿泊客たちとお酒を酌み交わし、時には朝方まで話し込むこともある。飲み明かした翌日は二日酔いに悩まされるが、早朝のチェックアウトでない限り、なるべく宿泊客を見送るそうだ。 「たまに『お見送りするの悲しくないですか?』って聞かれるんですけど、ぜんぜん悲しくない。だって、ほとんどの方がリピートしてくれるからです。『さようなら』じゃなくて『いってらっしゃい』なんです」
美しすぎるタイ・バンコクの安宿オーナーを直撃「お見送りの言葉は『さようなら』じゃなくて『いってらっしゃい』」

「Long Luck」をずっと運営し、毎日笑って過ごしたいと話すゆかりさん

 タイ語で「恋をする」という意味を持つゲストハウス名の「Long Luck」。ここに恋をして、また戻ってきてほしい。そういう想いから名付けられた。「Long Luck」は名前に込められた想い通り、宿泊した旅行者の半分以上がリピーターとなり帰ってくる。  2016年4月にオープンしてからは、口コミが広がり順調な滑り出しを見せ、同年の7月後半から9月末までずっと満室続き。口コミは旅人の間で拡散し、2017年に入っても客足が減ることはない。資金難で各方面から借りたお金は、今年4月に完済できたそうだ。 「いまやりたいことですか? 仕事は楽しいんですけど、私がずっとゲストハウスにいなければならないので、旅行に行くことがなかなか出来ないんです。なので任せられる人が出来れば、ゆっくり旅に出たいな」  もともと、ゲストハウス運営に興味があったわけではなかった。ピジューからの提案に深く考えることなく乗ったのは、三十路を迎えた彼女に「海外移住」という新たな道がすんなり受け入れられたからではないだろうか。  資金難、借金、極貧生活。満を辞して挑んだタイの移住生活は順風満帆なスタートではなかった。それでも困難に屈せずカオサンで根をはることができたのは、国籍問わず周囲の人々に支えられたからに他ならない。  ゆかりさんとのインタビュー中、出かけていた宿泊客がゲストハウスに帰ってくるたび彼女は「おかえりなさーい!」と声をかける。「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」しかないカオサンのゲストハウス。  今宵も彼女は、宿泊者たちと酒を酌み交わし旅の話で花を咲かせているだろう。<取材・文/西尾康晴>
2011年よりタイ・バンコク在住。バンコク発の月刊誌『Gダイアリー』元編集長。現在はバンコクで旅行会社TRIPULLや、タイ料理店グルメ情報サイト『激旨!タイ食堂』を運営しながら執筆活動も行っている。Twitter:@nishioyasuharu
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