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ボッタクリ風俗で遭遇した、「天変地異」――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第42話>

この低クオリティはもはや芸術である

 明らかに動揺が見てとれました。頼まれるはずがないと思っていたという顔をしています。  「35000円だよ?」  「うん、何が起きるか興味あるし」  こうして35000点分の点棒が配布されたのですが、彼女自身もこのメニューが何なのか分かっていなかったらしく、  「はい! 天変地異!」  と言っただけでした。正直に言うと、その言い方がちょっとかわいかった。ただ、これで35000円はとんでもねえボッタクリだな。  「お話はもうしてるもんね、あと1個」  結局、僕は15000Pをチョイスしたのですが、彼女が覚えている歌がない、ということで、ないないづくしの女なんですけど、それじゃ困ると粘って、なんと唯一覚えている歌、小学校の校歌を歌ってもらいました。  暗闇に響き渡る革命軍の女の校歌。何やってんだろうと思いますが、本当になにやってんだろうです。なぜか「誇り高き森を抜け」という意味不明な歌詞だけが強烈に印象に残っている。  結局、僕の手元には51000点分の点棒があり、これが麻雀だったらまあトップ取れる状態になっていたのです。  「じゃあね、こういうのにもうひっかかっちゃダメだよ」  革命軍はそういって満足気に僕を見送ります。入口ではピンポン球がすごい顔で睨みつけて言ってきます。  「料金所は隣ですので」  ドアを出て、しばし考えこむ。なかなか考えられたボッタクリだと。この三店方式が本当に有効なのか分からないけど、彼らなりに摘発を避けようと考えた末の方策だ。さらにはあのメニューの存在が素晴らしい。選ぶメニューはほぼ確定しているとはいえ、自分で選んだという意識を客に植え込ませる。なかなか考えていやがる。  「これはもう芸術かもしれんな」  考え込まれた犯罪は芸術だと思っている。それが良いことだとは言わないが、こうして考えに考え抜いた行為はやはり芸術だ。感嘆の声をあげたくなってしまう。  「ただもうちょっと考えたほうがいいよなー」  これだと、だれもわざわざ隣の部屋に行って金を払うわけがないので、最後の最後で「本当にお前らちゃんと考えたのかよ」と言い残し、階段を下りた。なめ猫のブロマイドの上に点棒置いて帰った。  東京とはすごいところだ。とんでもないボッタクリがある。そう考えながら森のように伸びるビル群の中を歩いていると、なんだかそのビルたちが誇り高く建っているようにみえて、「これが誇り高き森を抜けて」ということか、と理解した。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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