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小泉今日子も怒っていた検察庁法改正案、真実を言っているのは誰だ?/倉山満

安倍応援団の誰が、「検察庁法の改正が必要火急」との理由を証明したのか?

 さて、人気も中途半端で何の実力も無いくせに、オピニオンリーダーを気取る人間の説教の中身が頓珍漢なのだから呆れるしかない。とはいうものの、たいていの人は何のことかわからないだろう。ざっくりと、一から説明しよう。  安倍内閣は一貫して、法務検察人事に介入してきた。その結果、出世したのが、黒川弘務東京高検検事長である。この人物は「官邸の守護神」と言われ、数多くの疑獄を葬り去ってきたと言われるが、真偽は定かではない。ちなみに、安倍内閣での事件を列挙すると、小渕優子政治資金規正法違反事件、松島みどり団扇問題、甘利明UR口利き問題、下村博文加計学園パーティ券問題、森友事件(佐川宣寿元理財局長ら37名の職員の一斉不起訴)。壮観だ。まさか、このすべてを黒川氏ひとりでもみ消したとは思えないが、検察ウォッチャーの間では、「安倍長期政権の陰に黒川あり」と言われているのも確かだ。  その黒川氏も今年の2月に定年で、送別会まで用意されていた。ところが直前の1月31日に突如、閣議決定で定年が延長された。検察官の定年は延長できないはずが、安倍内閣は国家公務員法の政府解釈を変更してまで強行した。2月以降の国会では、野党の質疑に対し森まさこ法務大臣は支離滅裂で何ら答弁ができなかった。当然だろう。  そんな時にコロナ騒動が発生し、一時休戦となった。はずが、突如として安倍内閣は、公務員の定年延長とともに、検察官の定年延長も持ち出した。狂信的な安倍応援団以外は、誰がどう考えても不可思議な話だ。  安倍応援団は、粗探しに必死だ。しかし、理屈になっていない。  そもそも、なぜコロナ対策で忙しい今、そして経済対策が後手に回っている時に、急いでやるのか? それこそ不要不急の話ではないのか?  この一点で、安倍擁護論は成立しない。別に言論の自由があるので弁護は勝手だが、「検察庁法の改正が必要火急である」との証明を誰がしたのだろうか? 少なくとも、政府答弁で、それを証明した部分は一つもない。それはそうだろう。あれば、答弁が崩壊して国会が空転するはずがない。  常識で考えて、黒川氏の為の法案ではないか、政権が黒川氏を使って汚職隠しをしようとしているのではないかと疑うのは、仕方あるまい。これまでの所業からして。  擁護論者は、「この法案は民主党政権の時に用意されたのであり、長年の懸案だ。そもそも、施行は2年後であり、黒川氏には関係ない」と主張する。直接的には、その通りだ。だが、黒川氏の定年が延長され、夏に検事総長に就任すれば、現行法でも65歳になる2年後まで検事総長を続けられる。そして、その2年後に今国会で検察庁法が改正されていれば、黒川氏はさらに3年延長、68歳まで検事総長に居座れる。  もちろん、そんな上手くいくとも思えないが、そういう疑惑が生じているのは事実だ。やはり、「なぜ今、これをやるのか?」という疑念が強くなる。  批判勢力が「三権分立を脅かすな」と主張しているのに対し、「司法権を握っているのは裁判所だ。検察は行政権であり、司法権の独立の対象ではない」と反論する。建前上は、その通りだ。だが、検察には起訴独占権と起訴便宜主義がある。要するに、警察が捕らえた容疑者を裁判に訴えるのも、無罪放免で見逃すのも、検察の胸先三寸なのだ。そして、起訴後有罪率は99.9%。事実上は、検察が裁判をしているのと同じで、こんな現状は変えるべきだ。  だから、じっくり議論すべきである。それでも、今やる理由は何だ?
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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