フィリピン人から学んだ、カジノでギャンブラーからカネを恵んでもらう方法
「いいか、見てろよ」
普段僕に対してやっていたように、大勝ちする人の隣にスッと座り、世間話をし、アドバイスをする。しばらくして1,000ペソ(2,200円くらい)を持ってくる。
「500ペソ貸してやる。これはコーチだ。仕事だ。教えた相手が勝てばいい。向こうも気がいい。こっちも金がもらえる時がある。お互いにハッピーだよ。お前もそうだったろ、兄弟。元々金があったんだから次の旅でも邪険にしないでくれよ」
ブラザーというより父親のような年齢のおじさんは、わざわざ自分の打算も言いながら僕を励ましてくれた。照れていたのかもしれない。
そうだ、僕はまだ諦めちゃいけない。金がなくなったくらいで死にたくなるようなら勝負のためにカジノに来たことも嘘になってしまう。
とりあえずその場で金を作るだけの体力とアイデアというのは常に持っていた方がいい。お願いすればとりあえず仕事がある場所を把握したり、身の回りにある、「売ってその場を凌げるもの」を覚えておいたり。そのどちらも持っていなかった僕は元気だけで乗り切ることにした。乞食の猿真似だ。
カジノの中を歩きながら耳を澄ます。日本語が聞こえた方向に歩く。海外に来た日本人というのは、日本語に弱い。日本で知らない人に話しかけられても冷たい応対をするのに、海外で日本人に話しかけられると思わず嬉しくなってしまうのを、僕は経験から知っていた。
入り口のスロットマシーンに座る日本人二人組。会話の内容を聞くに、二人ともカジノもフィリピンも初めてのようだった。
「日本人ですか?」
少し驚いた顔をした後、すぐに安堵の表情が見えた。
「そうなんです、僕たち初めてカジノに来てて……」
「なるほど、その打ち方見ててそうだろうなって思ったんですよね。僕はこっちに住んでいるんですけど、良かったら他のゲームも教えましょうか?」
「ええ!いいんですか!助かります!」
話がポンポン進んでいく。彼らは高校の同級生らしい。僕もこの時点で三週間フィリピンにいたので完全な嘘でもない。彼らの目には僕がさぞ頼もしく映ったことだろう。財布の中には数百円分の外貨しか入っていないとも知らずに。
ここからが本番だ。彼らを勝たせなくてはならない。二人いるので、一人が負けてももう一人が勝てばいい。僕は彼らにゲームを教えながら、なんとなく別々のゲームを遊ぶように誘導した。こうすることで二人揃って負ける可能性を減らし、ひいてはおこぼれをもらう可能性を上げるのだ。
一人にはスロットマシーンを、もう一人にはクラップスと呼ばれるダイスゲームを勧める。海外のスロットゲームは技術が要らないので、僕はクラップスを遊ぶ彼にべったりと張り付いた。こちらも技術で勝てるようなものではなかったが、賭け方の工夫が必要だった。
他人の財布を増やそうと思う時、人は予想以上に慎重になる。ギャンブルをする者としてのプライドかもしれない。向こうはこちらをカジノのプロだと思っている。一見何も持っていないように見えてはいるが、出どころ不明の金で毎日豪華に遊び、見栄を張る必要がないくらい金を持っているからラフでボロボロの格好なのだと想像しているに違いない。その期待を裏切るわけにはいかなかった。なぜなら当時の僕は自分の運だけで生活しようとしたのだから……。
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
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Youtube→賭博狂の詩
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