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安倍前首相「不起訴不当」議決の意味<法学者・小林節氏>

「不起訴不当」議決の意味

 かつて、行政監察の調査で英国に行った際に、私は、「法典を閉じて、常識に照らして判断せよ」という格言を知った。そして、それが今、私の心の中に蘇って来た。  検察というプロの行政機関(司法の入り口)の「忖度」による法律に照らした技工的判断に対して、世間の常識に照らした判断が、正に、今回の「不起訴不当」の議決であろう。

政権交代で情報公開を!

 この議決を受けて、検察は一応、再捜査(再検討)はせざるを得ない。しかし、前回、「証拠不十分」として安倍前首相を起訴しなかった検察である以上、今回、同じ証拠を再検討しても前回と同じ「不起訴」という結論に至ることは目に見えている。とはいえ、同じ検察でも、菅原前経産相による買収、河井元法相夫妻による買収、吉川元農水相の収賄の様に証拠が明らかな事例はきちんと立件している。  だから、ここまで露骨な買収事件について、検察があくまでも証拠が不十分で嫌疑不十分だと言うならば、政権交代により、政府がこれまで「存在しない」と言い張って開示を拒んできた政府側が保有する情報(証拠)を公開させれば有効である。  政権交代を実現させるためには、自・公に学んで、野党側も野党共闘を行えば良いだけの話であるが、それが実際には意外と困難で自公政権の延命を許して来た。  最近の国政選挙では、恒常的に50%以上の有権者が棄権してしまっている。それは、既に過半数の国民が政治に絶望し勝手に「政治を見捨て」ているからだが、それこそが、半ば思考停止の固定客のような自公の組織票の効果を高め、安倍・菅・竹中利権政権の延命を許して来た。  だから、今、大切なことは、この政治を諦めてしまった過半数の有権者を投票場へ向かわせることである。  そのためには、「共産党の選挙協力は求めるが、奪還後の政権には入れない」などという理不尽なことを立憲民主党が言わないだけで良い。 <文/小林節 記事初出/月刊日本9月号> こばやしせつ●法学博士、弁護士。都立新宿高を経て慶應義塾大学法学部卒。ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。著書に『 【決定版】白熱講義! 憲法改正 』(ワニ文庫)など
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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