エンタメ

NSC“伝説の講師”がM-1にあえて苦言を呈する

M-1は“競技”である

インディアンス

惜しくも敗れたインディアンス ©M-1グランプリ事務局

 さて、話は変わりますが私は「M-1」を「4分間の競技漫才」と勝手に呼んでいます。予選があり、準決勝、決勝、などという呼び方があるように、M-1や追随する他のコンテストも同様に“競技”と言ってもいいでしょう。そのため、勝ち抜くための必殺技、いわゆるイチオシのネタをどこで使うかというのが、大きなポイントになります。 「M-1」「キングオブコント」の準々決勝の前によく相談をうけるのが「ネタの順番」です。AとB、2本の勝負ネタのどちらをやればいいのか?ということです。SNSが浸透して、新ネタもすぐに拡散されて、いわゆる「ネタバレ」をしているのでみんな必要以上に慎重になっています。あえて「必要以上に」というのは、1回や2回見られていても、面白いものは面白いのです。逆に言えば「これ前に見たわ」ですまされるネタはさほど面白くはないということです。  私のアドバイスはいつも決まっています「準々決勝には一番おもしろいネタをもっていくこと」です。  みんな先の準決勝で勝ち上がって決勝に進みたいと思うのは当然ですが、まず準々決勝をクリアしないとその先のステージには進めないのです。ですから直接AとBのネタを観せてもらった時もそうでない時も「AとB自信があるのはどっち?」と聞いてその答えた方を進めます。仮に私が別のネタの方が客観的に観て面白いと思ったときでも「じゃ、それでいき」と背中を押します。  誰がどう見ても絶対に別の方が面白いとようなことでもない限り、基本的には自分たちで選ばせます。そうしないと落ちた時に必ず後悔するからです。第三者に言われてやった場合と自分たちで納得してやった場合は同じ後悔でも度合いが違うでしょう。最後の責任は自分たち自身が負わないと進化はしていきません。  これは決勝戦でも同じで、「ネタの順番を入れ替えたら勝ってたのに」と関係者が無責任なことを言ってしまいがちですが、決めた演者の気持ちを尊重したいと思います。ファンのみなさんは好き勝手に言って頂いてけっこうです、それで盛りあがってその演者の話題になるならマイナスになることはなにもありません。

競技である以上、ルールの厳格化と敗者復活戦の改革が必要

オズワルド

SNSではオズワルドを推す声も…… ©M-1グランプリ事務局

 競技である以上、ルールの厳格化はお願いしたいところです。制限時間は守ってほしいし、熱演のあまり超えてしまった場合はたとえ決勝でも強制終了させるべきです。4分間(※許可されているオーバータイム30秒)にするために「ここの5秒を削ろう」「この10秒はどう言い換えるか」と頭を抱えている演者をこれまで数多く見てきました。この制限時間は守らせなければ「4分間の戦い」は成立しません。  最後に「M-1」にはいつも言っていることですが、敗者復活戦を寒い中でやらせるのはやめてもらいたいです。今年は特に寒かったようでテント一枚のしきりの中で順番を待つ演者たちがかわいそうですし、お客さんたちも気の毒です。  演出上の問題と言われればそれまでですが、「漫才日本一を決める頂上決戦」を争わせるならば、敗者復活戦であっても彼らをリスペクトして最大限の力が発揮できる場所を提供してあげることが大事ではないでしょうか。主催者には切にお願いしたいと思います。 文/本多正識
漫才作家。'84年、オール阪神・巨人の台本執筆を皮切りに、漫才師や吉本新喜劇に多数の台本を提供。'90年吉本総合芸能学院(NSC)講師就任。担当した生徒は1万人を超える。著書に『吉本芸人に学ぶ生き残る力』(扶桑社刊)などがある

吉本芸人に学ぶ生き残る力

NSC講師として1万人以上の生徒を送り出した伝説の講師が教え子たちに教えた生き抜く術とは

1
2
おすすめ記事