俺の夜
「5月まで店を閉めます」と、馴染みの飲み屋の大将から、こんなLINEが届いたのは緊急事態宣言発令の夜。聞けば、新宿界隈の店は飲み屋もキャバもガールズバーも、ほぼ営業を自粛したという。
とはいえ、そこは歌舞伎町。お上の言うことを聞いておとなしく店を閉めているのだろうか。緊急事態宣言後、初めて迎えた週末に歌舞伎町を歩いた。誰もいない歌舞伎町にいるのはどんな人か?
11日の土曜日、21時半。いつもなら人でごった返す歌舞伎町、ドン・キホーテ前。カメラマンと合流すると、「居酒屋いかが……」と居酒屋の呼び込みから声をかけられそうになったその刹那。ぬっと横から表れた大男がドスの利いた声で叫んだ。
声の主は私服警官。思わず、“本職”の方かと思ったが、あちこちに私服、制服の警官がいて、呼び込みたちを威嚇する。
見渡してみると路上にいるのは、ほぼ客引き。店の看板は電気こそついているものの、どこもかしこも休業状態。歩いていると、今度は風俗系の呼び込みが声をかけてきたので、話を聞いた。
「キャバから抜き系まで、今週末はまだやってる店もあるけど。来週はもうダメなんじゃないかな。やってる店がほとんどないから、逆に声をかけられることもあるけど、まぁ、キツいっスよ」
ずっと使い続けていると思われる、ボロボロのマスクからなんとも悲しい雰囲気が漂った。
街をうろついている人のほとんどが呼び込み、キャッチ、たまに警官と、異様な雰囲気が歌舞伎町を包み込んでいた。それでも歌舞伎町に来るワケとは……
では、そんな歌舞伎町にいる“普通の人”はどんな人なのだろうか。1時間ほど粘って、2人の女性から話が聞けた。
「来週から本格的にリモートワークになるから、来週から出社しなくていいように処理してきました」。
朝から休日出勤したという会社員のAさんはお疲れモードだった。飲みに来たというBさんも浮かぬ顔だ。
「よく行く飲み屋さんが来週から自粛で休業だから、少しだけ顔を出しに来ました。でも、常連さんは誰もいなくて、お店は寂しかったですね」帰りしな、先ほどの呼び込みが声をかけてきた。
「取材、終わりましたか? 最後に一杯……ダメですかね(苦笑)」
さすがにね……。いつもなら、よし、行こう! と言うところだが、グッと我慢して帰路に就いた。撮影/赤松洋太 取材協力/野中ツトム(清談社)
仕事で那覇に行くことになったのは、コロナ騒動真っただ中の3月初旬。上司から「沖縄か……いいな。まぁ、このご時世だから濃厚、いや濃密接触だけは禁止で」と、念を押されて機上の人となったのであるが、羽田から乗った飛行機はガラガラ。図らずも快適な空の旅となったのであった。
那覇で出迎えてくれたのは、沖縄在住10年を迎えたエロ本編集者時代の大先輩のM先輩だ。M先輩の超オススメの店があるというので、ウッキウキで那覇に着いたのだったが……「めんそーれ! いやぁ~コロナ騒動でさ、行こうと思ってたお店がしばらく店を閉めることになっちゃってさ~」
M先輩、Tシャツ姿でニコニコ笑いながら話していますが、こちらは取材しないとページが白紙で出るわけで、もう気が気じゃない。
「なんくるないさ~。代わりにちょっとディープなとこ用意したから、行きましょうね~」
そう言って那覇をすっ飛ばして向かったのが、深夜の宜野湾市だったのである。
真栄原の夜は濃い、濃すぎる!
やって来たのは、有名な赤線地帯があった真栄原からほど近い、煌々とピンクのネオン管が光るスナックビルにある「ラウンジLADY」だ。じゃあ、まずはやっぱり沖縄なので……ということで、泡盛をボトルで入れ、明子ママの「アリ、乾杯!」でスタート。
旨い酒とウマの合うトーク。まったり過ごす真栄原の夜
「東京、大変でしょうに、わざわざ来てもらって……」
ママの優しい語り口がなんとも落ち着く。ゆったりとした空気が店を包み込むようである。なんと言うか……まるで“沖縄の母”のような感じなのだ。
「ウチの店はね、今年で10年目かな。私、こういうお店で働いたことなかったけど、やってみたくて始めちゃったんですよ」なんとママ、未経験でスナックを始めたというから驚きである。そんなママを慕う常連客は多く、この日も、24時をすぎたあたりから常連客がひっきりなしに訪れ、気がつけばボックス席もカウンターも満席状態。
こんな時間から満席に!? と驚いていると、「沖縄の人は呑み始めるのが遅いですからね~」と、沖縄の呑み方を話してくれたのは、スタッフのまいちゃん。車の運転で酒が飲めないM先輩をよそ目に、まいちゃんとママのアットホームなトークで泡盛が進む。気がつけば、ボトルをほぼ呑み干してしまった。店を出ると、泡盛で酔った体に3月の沖縄の風が心地よい。こんな店が近所にあったらな……そう、思いながら、店を後にした。
【ラウンジLADY】
住:沖縄県宜野湾市真栄原1-1-15ライトビル2F
電:090-1946-7497
営:21時~ラスト
休:水・日
料:1万円で飲み放題
ボトルは泡盛、ウイスキーなど各種ある。カラオケは1曲200円 カウンターだけでなく、大型のボックス席もあり、団体客でも楽しめる
撮影/赤松洋太 取材協力/M先輩
数年前までは、行きつけのバーで毎月のように、誰かのお誕生日会と称してテキーラが飛び交う夜をすごしたものだ。しかしながら最近の私ときたらどうか? 行きつけの飲み屋のネエちゃんの誕生日を間違える始末である。あの日以来、コピペした文面の営業LINEしか返ってこなくなってしまい、年が明けても傷心の日々である。
ウケのいい誕生日をプロデュースしてこそ一流の遊び人である。そこで今回は趣向を変えて、最近のキャバクラにおける誕生日事情を取材するという名目で、夜の街に繰り出したのであった。
お気に入り嬢をパクッ写真ケーキが大ウケ!
やって来たのは新宿歌舞伎町の人気キャバクラ「AMATERAS」。根掘り葉掘りと最近のバースデー事情を伺ったのは樹莉チャンと瑠香チャンのおふたり。
「最近、すっごいケーキがあって面白いんですよ~」
と言いながら、瑠香チャンがスマホで写メをパチリ。ケーキなのに写メ? 頭の中には? マークがいくつか浮かんだが、まぁ、いいやと飲み始めてから30分。お店のマネジャーが「届きました!」と持ってきたのがこちらの写真ケーキだったのである。
「このケーキ屋さん、写メを送ってケーキを注文すると30分でその写真をケーキにして持ってきてくれるんですよ~。チョーすごくないですか?」これはすごいよ、瑠香チャン。そして、みんなでケーキ入刀とばかりにスプーンで自らの顔をすくう。これがまた楽しいのである。
あたしを食べて~! と、ケーキをネタに盛り上がる
「まずはテポドンさん、あたしを食べちゃって!」
と瑠香チャンからおねだりされて、パックンチョ! お返しに樹莉チャンに「じゃあ、オッサン食べて~」とお裾分け。たかがケーキ、されどケーキ。届いてビックリ、食べて楽しい。ケーキ一つでこんなに盛り上がるなら、バースデーのネタとしては最高である。これで1万6000円なら、コスパは抜群。ちなみに定番とされるバルーンは5万~8万円、お花のスタンドは1万円~が相場という。
どのくらい通えば常連になれる?
また、キャバクラのバースデーというと、どうしても女のコをお祝いするイメージが強いが、常連になると女のコたちやお店からお祝いもあるという。でも、常連って、週2? 週3? どんだけ通うんだと瑠香チャンに聞くと、「月に1回でも、末永く通っていただけるならお祝いしちゃうかな」
え~!? 月1回でお祝いしてくれるなら、俺、通うわ! というわけでこの日は2人を指名して、ケーキを肴に飲んだのであった。
住:東京都新宿区歌舞伎町2-23-12チェックメイトビルB1
電:03-3204-1248
営:20時~ラスト
休:日祝
料:20時~20時59分8000円、21時~ラスト1万1000円(60分) 延長30分4000円(税サ別)
在籍キャストは120人を誇る歌舞伎町の人気店
撮影/赤松洋太 取材協力/T先輩 森田光貴