第百七夜【前編】

雪の下北 はぐれ鳥

東北新幹線開通で沸き上がる青森の夜を堪能


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「年末は故郷に帰るかな。母ちゃ、元気にしでっだろうか」

 阿佐ヶ谷の大衆酒場「K」の看板娘・青森出身のマリアちゃん(37歳)がカウンター奥のブラウン管を見ながらポツリと呟いていた。テレビ画面には駅員に扮した吉幾三の姿。「東北新幹線 新青森駅開業」のキャンペーンCMだった。

 東北には縁もゆかりもないスギナミではあるが、東北娘には親しみを感じてしまう。色白肌、茶がかった瞳。そして何より、あの微妙に隠しきれない東北訛りを聞いていると、たとえ東京の”垢”がたまったキャバ嬢の営業トークでも、騙されているようには思えないから不思議なものである。

「青森行ったことないの? えっ東北も? ばんかくせ(バカじゃない?)。新幹線でちゃちゃっと行けるじゃないの」

 そんなマリアちゃんの言葉に後押しされた僕は、気がつけば東北新幹線・はやて34号の車上の人となっていた。


フラリ訪れた北酒場で地元客と一緒に賑わう


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 新幹線に乗って一路青森へ――といったところで青森は広い。真っ当な旅ルポとしては、新路線が開通された新青森駅を目指すのが本筋ではあるが、「朝までズブズブに飲める」が信条の「俺の夜」的には、やはり県内で一番盛り上がっている繁華街へと向かいたい。青森出身の編集部員、在住友人らへの下調べの結果、その目的地は港町・八戸となった。

 平日夜、八戸駅に降り立った僕と夜遊び仲間のI氏。飲食店が集まる六日町付近へはタクシーで15分。まずは腹ごしらえのため、地元サラリーマン&漁師御用達の「みろく横丁」へ向かった。

 オープンな屋台スタイルの店舗が軒を連ねる。寒空の下、郷土鍋から立ち上る湯気と客の熱気が充満した店内を眺めつつ小路を進むと、「お二人さん、いらっしゃい。席、二つ空けときましたよ」と快活な呼びかけ。声の主は「ねね」の若おかみ・富士子さん。

「東京から? コッチは寒いでしょ。温まって精のつくもん用意するからゆっくりしてって」

 さば、ほっけ、いか、焼きうに。寒さで硬直した頰も思わず緩む、とれたて魚介類を肴に、地酒を熱燗でグビグビと呑む。

「兄ちゃんたち、八戸は馬刺しもいけっど。八戸の”戸”ってのは牧場のことで、ここらは軍用馬の産地だったんだから」

 てな具合に、たまたま隣り合った地元客のO氏とも意気投合。

「おし。とっておきのスナック行こか。お化け屋敷かもしれんけど、勘弁な。ガッハハハ」

 豪快に笑うO氏の水先案内で、まずはスナック「リバティー」へ。




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東京―新青森間は最短3時間20分。
青森中心部の盛り上がりにも期待したい!



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みろく横丁「ねね」にて。若おかみの一人・富士子さんにお酌をしてもらい、
銘酒「三戸のどんべり」を堪能する。寒がりなスギナミのために
ちゃんちゃんこを用意してくれるなど、粋なサービスが嬉しい






協力/猪口貴裕

スギナミ 東京都生まれ。主な出没地域は中野、高田馬場の激安スナック。特技は「すぐに折れる心」
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