元警官から「これを公開して大丈夫なのか?」の声…映画『日本で一番悪い奴ら』が描く警察の違法捜査の実態
元大阪府警巡査部長を務め、銃器対策課で潜入捜査を担当した高橋功一氏は「見事に裏切られました。よくここまで映像化できたものだと感心します。当時の警察内部を知る生き証人として言えるのは、これは北海道警だけの特異な事例ではなく、全国の県警本部で繰り広げられていた実話であること」と語る。
綾野剛演じる北海道警察の新米刑事は署内の敏腕刑事から、刑事として認められる唯一の方法として「点数」を稼ぐことを教えられる。あらゆる罪状が点数別に分類され、熾烈な点数稼ぎに勝利した者だけが組織に生き残る世界だ。
続けて、高橋氏は「北海道警が異常な捜査をしていたのではなく、これは僕が所属した大阪府警も同じでした。玄人から見ると、描写がリアル過ぎる。この映画を観て、ずっと喉の奥に刺さったままの小骨がとれたような思いがしました。にわかには信じがたいことかも知れませんが、私たち現場の捜査員は、潜入捜査は違法捜査であり、絵空事だと、上層部の構想を相手にしていなかったんです。
しかし、銃刀法を改正することで、警察官による密売人からの拳銃の買い取りを合法化する法案が、国会で通過しました。銃器対策課の専従捜査員は、密売人から拳銃を買い取り捜査せよという指示命令が出され、現場担当はこれを真面目にやっていた。このことが明るみに出てくると、現場担当の個人責任として担当のみを切り離し、警察組織を守るための『組織防衛』として、幕引きを計りました。どの県警本部でも同じことが行われていました」と当時の状況を伝える。
「点数稼ぎ」のためには裏社会に飛び込み、捜査に協力するスパイ=S(エス)を仲間にし、有利な情報を手に入れる――。こうして、その教えに従った刑事と、彼のもとに集まった3人のSたちとの狂喜と波乱に満ちた生活が幕を開ける。自身は「正義の味方であり、悪を絶つ」との信念を持ちながらも、でっちあげ・やらせ逮捕・おとり捜査・拳銃購入・覚せい剤密輸など、北海道警察の刑事はありとあらゆる悪事に手を汚していく。
そして、高橋氏は「まさか、あの当時の銃器捜査の実態が実写映像化されるなんて思わなかった。冒頭に流れた『これはフィクションです』のテロップを信じてしまったが、これは見事なまでにノンフィクション。ラストの綾野剛の危機に迫る好演には息を呑むが、はたしてこれを公開して大丈夫なのか」と舌を巻きつつも、封切りを心配する。
元警官への取材を進めるに従って、リアル過ぎる描写は確かなものだとわかる。「何故、警察史上最悪の不祥事が発生したのかが如実に描かれている。組織が腐敗しない体質となるには何が必要で何が不要かを訴えており、組織人必見の作品である」と組織論で語るのは、元千葉県警の刑事課長・田野重徳だ。
そして、“ミスターぶっちゃけ”としてテレビ番組でも活躍する元兵庫県警の刑事・飛松五男氏も「拳銃摘発が社会正義の実現と命を懸ける諸星刑事の手段を選ばずの想像を絶するおとり捜査。それを、見事に演じきった綾野剛! リアリティのあるエンターテイメント映画であり、警察捜査のバイブルとなる作品」と太鼓判を押す。また、ジャーナリストで銃器評論家の津田哲也氏は「警察組織の“悪”をこれほど鋭く抉った映画は過去にない。日本中が“正義”と欺かれていた『平成の刀狩り』の“巨悪”を取材した私は、ラストシーンのカタルシスに震えた」と話す。
綾野剛と白石和彌監督タッグは金字塔を打ち建てるのか、心待ちにしたい。
『日本で一番悪い奴ら』
2016年6月25日[土]全国ロードショー/配給:日活
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会 <取材・文/北村篤裕>

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